そんな同社は近年、収益の多角化に向け、従来型の銀行サービスの中でも個人向けのローンサービスに力を入れることで顧客の口座獲得を模索するようになった。実際のところ、同決算においてセブン銀行の貸出残高は約480億円で、前年同期比28.5%増と大きく増加しており、10月には500億円を突破した。全国各地のATM網が整備されたタイミングで典型的な銀行サービスに本腰を入れるのは、適切な転換点ではないだろうか。
そして今回、同意を得られたフリーランスやギグワーカーなど、従来の信用スコアや収入証明では評価が難しかった層をターゲットに、グループ内での購買データを与信審査に活用する融資サービスを国内で初めて開始すると発表した。
同社の取り組みは、このターゲット層に新たな信用評価手段を提供することになり得る。購買データによる審査は、これまでの信用情報に依存しないため、消費習慣や日常的な支出から返済能力を判断できる点が大きな利点である。この仕組みが成功すれば、当該のフリーランスの人々にとって大きなメリットとなり、セブン銀行の口座開設を促す動機にもなる。
購買データを与信に活用する具体的な手法は明らかになっていないが、例えば、セブン-イレブンで酒類やタバコ類などに毎月多額の決済を行っているようであれば、ローン審査に悪影響を及ぼすなどの可能性も否定はできない。その一方で、健康志向な商品を購買していれば健康リスクが減ったと判断し、融資条件が緩和されるような特殊な与信の判断もできるかもしれない。
従来、銀行の融資審査は安定した雇用、つまり「給与収入」を前提に与信していたが、働き方の多様化に伴い、この仕組みでは適切に評価できない層も増えてきた。
海外では米Petalのように、従来の信用スコアに依存せず、利用者の金融習慣や消費行動を評価してクレジットカードを提供する企業が登場している。また英Rolleeのようにギグワーカーの収入履歴や働く時間のデータを活用するケースもあり、時代に即応した個人向けの与信サービスが増加している。
しかし、セブン銀行の「お買い物データに基づいた与信」アプローチは世界的に見ても珍しい。日常的な購買行動を基に返済能力を本当に評価できるかは未知数であるものの、仮に可能となれば業界のパイオニアとして莫大な先行者利益を得られるかもしれない。
セブン銀行は、ATM事業の成長が限界に達しつつある中で、購買データを活用した新たな融資ビジネスに注目している。この取り組みは、従来の信用評価方法では不利だったギグワーカーやフリーランスを対象に、新たな融資機会を提供する画期的なビジネスである可能性を秘めている。
それと同時にセブン銀行における今までの強みであり、これからの課題であった「少ない自社口座数」という構図を転換させるきっかけとなり得るだろう。セブン銀行がこの新しいビジネスモデルを成功させ、次なる成長の柱として位置付けられるかに注目していきたい。
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
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