WHY/HOW/WHATを具体的に見ながら、実際に施策に落とし込んだ事例を解説していきます。まずは、WHY/HOW/WHATの詳細を説明します。
ここでいうコンセプトは「企業や商品・サービスが世の中に存在する意義」を指します。企業のアウターブランディングの場合はパーパス(や、その中長期的なゴールを示したビジョン)がそのままコンセプトとなります。
「スターバックス社」のコンセプトは、サードプレイス(=家でも職場でもない、本当の自分に戻れる3番目の場所)です。一方で、商品のアウターブランディングの場合はパーパスに基づいた商品の存在意義がコンセプトとなります。
商品が「スターバックスのコーヒー」だとすると、コンセプトはサードプレイスに基づいた存在意義ですので、仮に定義するとしたら「本当の自分に戻れる香り」といったものになるでしょう。
現代では、生活者との接点は、商品やサービス、マス広告はもちろん、デジタル、SNS、PRなど、非常に多岐にわたります。こうしたコンセプトをあらゆるタッチポイントで共通にすることで、初めてブランドが蓄積していくのです。
コンセプトを決めた後は、それを伝える人格を徹底することも重要です。タッチポイントによって人格が変わると、ブランドイメージがぶれてしまうからです。
この人格は、企業の行動規範であるバリューから導き出されます。例えば「挑戦」を行動規範とする企業の人格は「やんちゃ」といったイメージになりますし、「誠実」を掲げる企業の人格は「真面目」なものになるでしょう。その人の言動が他人からの印象を決めるように、行動規範と人格が一致することで、企業の実像が正しく伝わっていきます。
筆者は「企業の人格化」と呼んでいるのですが、近年、人々が企業を「人格」として捉え、直感的に好き嫌いを判断する傾向が強まっているように感じます。
SNSの登場によって、企業のアカウントが友人のアカウントと同列に並び、コミュニケーションを取るのが容易になったことが大きな要因ではないかと推測していますが、生活者から好まれる人格を形成することが今後ますます重要になってくるでしょう。
人が1日に触れる情報は、一説では人間が処理可能な情報量の4〜5万倍に達するともいわれています。つまり、情報の99.99%以上は人々の記憶に残らず通り過ぎていきます。
いくら共通のコンセプトと人格を貫いたとしても、それでは意味がありません。その企業が何を提供するのかを表すミッションを、発見のあるアイデアで体現し続けることで、ようやく生活者にブランドが届いていくのです。
上記のアウターブランディングの型の具体例として、前回挙げたPETOKOTOの「ペット専用新幹線」という施策を紹介しましょう。
PETOKOTOは「人が動物と共に生きる社会を目指す。」というパーパスのもと、「ペットを家族として愛せる世界へ。」をビジョンに掲げています(=WHY:共感できるコンセプト)。
その理想の実現に向けて、電車や飛行機などの公共交通機関で移動する際に、ペットの同伴に制限があるのは課題の一つでした。
PETOKOTOのバリューは「短い命に届けよう」「ペットを愛するプロでいよう」「輪の外も想像しよう」の3つです。飼い主と同じ想いを持ちながら、けれど動物が苦手な人の視点も常に想像し、命の短いペットのために最速で製品やサービスをアップデートし続ける、そんな真摯(しんし)な姿勢を大切にしています(=HOW:ぶれない人格)。
そこで生まれたのが、ペットとともに旅行するための実証実験「ペット専用新幹線」です。騒音やにおいを最小限にするよう配慮しながら、ペットをケージから出して乗れる車両を設ける。本当の家族として同じ席で旅行をするペットの姿は、日本はもちろん海外のニュースでも報道され、「人が動物と共に生きる社会」への小さな前進となりました(=WHAT:発見のあるアイデア)。
この事例は実証実験ですが、サービスを考える際も、広告のコミュニケーションをつくる際も、基本的には同じ型が適用できます。そうすることで、どんなタッチポイントでも同じコンセプト・人格が感じられ、ブランドとしてのイメージが積み上がっていくのです。
ここで注意していただきたいのが、アウターブランディングはあくまで組織内のパーパスがにじみ出るものであり、単独で成立するものではないということです。
その組織に所属する人が信じていない”宗教”を、誰が信じてくれるでしょう? うわべを取り繕うだけでは、短期的な成功は望めるかもしれませんが、長期的に支持されるブランドにはなり得ません。たとえ遠回りに見えたとしても、まず中の人々が熱狂できるパーパスを定め、深めていく。これが変化の大きい時代を生き抜く、強い”宗教”を持った企業になるための第一歩なのです。
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