ユーザーの熱狂を巻き起こし爆発的に成長する企業と、そうでない企業の違いはどこにあるのか? そして、それは意図的につくり出せるものなのか? The Breakthrough Company GOでクリエイティブディレクターを務めながら、経営学者・入山章栄教授のもとで経営理論の研究を行う筆者が見いだした、新たな経営×クリエイティブのフレームワークを紹介します。
The Breakthrough Company GOでクリエイティブディレクターを務める松田と申します。GOと言うとたまに「いつも配車アプリお世話になってます!」と声をかけていただくことがあるのですが、タクシーの方ではなく、広告・事業開発支援を行っている会社です(“クライアントを目的地まで連れていく仕事”という点では同じかもしれませんが)。
筆者は、いわゆる“ブランディング”を得意領域の一つとして、ファミリーマートのプライベートブランド「ファミマル」の立ち上げといった大手クライアントの仕事から、自社で投資するスタートアップの案件まで幅広く手掛けてきました。
その中で永遠のテーマと言えるのが、「事業成長にクリエイティブが効く」ことの証明です。「ブランディングなんてやる余裕があるならデジマに投資すべき」という話をスタートアップ界隈でも耳にしますが、クリエイティブは“外面をきれいに整えるもの”という意識がまだまだ一般的なのだなと悔しく感じてきました。
その証明のために、筆者は昨年から早稲田の大学院に通い、経営学者の入山章栄先生のもとで理論研究を行っています。最先端の経営理論と出合うことで、クリエイティブをひとつ上のステージに上げられるのではないか? そこから生まれてきたのが、連載名にもなっている「Purpose Deepening(パーパス・ディープニング)」というフレームワークです。
近年、「パーパス経営」がある種の流行になり、耳なじみの良い理念を掲げる会社が増えています。しかし、社名を隠したら何の会社かわからないようなフレーズも多く、事業にプラスの影響を与えられているのか疑問なケースがほとんどです。
このパーパス・ディープニングは、パーパスの意義に対する解像度を高めるものであり、誤解を恐れずに言うと、“ブランディング”を超えた「企業の強い宗教をつくる方法論」だと考えています。
元来、宗教というものは「人はなぜ死ぬのか」を始めとする根源的な問いに答えるために生まれ、発展してきました。しかし、文明の発達とともに寿命は伸び、現代では「自分は何のために生きるのか」ということに悩む人が増えています。来世での救済から、現世での救済へ。欧米において、キリスト教信者が年々減り若者がスタートアップへと集まっているのは、その証左といえるのではないか、と前述の入山先生もよく話されているところです。
少子高齢化が加速度的に進む世の中で企業が生き残るには、優秀な人材を引きつけ、そしてユーザーに選ばれるための、より強い“宗教”が必要となるのです。
強い宗教を持つ企業と聞いて、どんな社名を思い浮かべますか?
おそらく、スターバックスやアップル、ディズニーといった企業が上位に来るのではないでしょうか。では、それらの企業に共通する点とは?
答えは、誰よりも中にいる人々が自分たちのサービスや商品を信じ、その伝道者となっていることです。
スティーブ・ジョブズ氏は、アップルストアをつくる目的を聞かれ、「MacやiPhoneの本当の価値が分かる人間が説明するため」と答えたといいます。ディズニーではスタッフのことをキャストと呼び、世界観をつくる重要な登場人物の1人として扱うことは有名な話でしょう。バリスタとのフランクな会話や、きめ細かなサービスを味わうことを目的にスターバックスに通っている方も多いのでは。
まず社員が一番の信奉者になることで、ユーザーやその他のステークホルダーにまでその熱が伝わる。キリスト教が爆発的に広がったきっかけも、ペテロやパウロといった使徒たちがキリストの教えをまとめ布教したことでした。この「社員の布教活動」の原動力となる“教義”がパーパスです。
会社によってはミッションと呼んだり、提供価値という名称だったりさまざまです。例えば、スターバックスでこれにあたるのが「サードプレイス」というコンセプト。「家でも職場でもない、本当の自分でいられる第3の場所」という意味です。
カップに書かれたバリスタからのメッセージを見て晴れやかな気持ちになったり、自分の名前を覚えてもらって嬉しくなったり──そんなスタバでの体験は、サードプレイスという信念に共感し、顧客にとって居心地のよい場所とは? を考え抜いた末につくられたものなのです。
さらに、パーパスのもたらす影響はサービスに留(とど)まりません。「サードプレイスにふさわしい商品とは?」「人材とは?」「空間とは?」と、それぞれの組織が自律的に考える。結果として、例えばリラックスできるインテリアに予算がかけられ、おもてなしのできる人材教育に労力が割かれ、質の高いサービスを提供するために直営店で運営される。
サードプレイスが、いわゆるヒト・モノ・カネといった経営資源の配分やビジネスモデルの構築など、事業全体の方向性を判断する規範となり、それが競合への差別化や優位性をつくり出しています。
つまり、本当に機能するパーパスとは、以下の3点の効果をもたらします。
そうして生まれた商品やサービスは唯一無二のものとして、顧客をはじめとしたステークホルダーの共感を巻き起こします。
ただ抽象的な理想を掲げるものではなく、人と組織が自律的に動き、企業が経営資源を効率的に運用するための、まさに”教義”といえるものなのです。
ですから、冒頭のスタートアップの話でも、なるべく早くパーパスを制定することが、企業の成長の方向性を定め、優秀な人材を集めるためにも重要であると筆者は考えています。
では、とにかくパーパスを掲げればうまくいくのかと言えば、もちろんそうではありません。失敗には大きく分けて2つのパターンがあります。
一つは、言語化に問題があるパターン。掘り方が十分でないためそもそものコンセプトが浅かったり、さまざまな関係者の意見を聞きすぎて誰にも響かない表現になったり。原因はいくつか考えられますが、ここに問題があるケースがほとんどです。
もう一つは、実装に問題があるパターン。パーパスを制定するだけで満足し、ただのお飾りになっているケースも散見されます。
では、どうすれば共感を呼ぶパーパスを開発できるのか、また、完成したパーパスをうまく組織にインストールできるのか。次回は、筆者が最先端の経営理論から見いだした「パーパス・ディープニング」について詳しく語ります。
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