「あの部署で使われているシステム」の仕様に合わせようとすると、「この部署との業務フローの共有」がうまくいかない……そんなことを続けているうちに、社内を見渡すと「部門最適」「部分最適」ばかりの状況ができてしまった──。
多くの日本企業で起きているであろう話だが、これがあなたの会社のデジタル化、特に経営のDXにとって大きな障壁になる可能性がある。どういうことか?
筆者は2024年5月下旬に書籍「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか〜日本型BPR 2.0」を上梓し、おかげさまで3カ月を待たずに3刷が決まるなど、一定のご評価をいただいた。本連載では、そのエッセンスをお届けしたい。
前回の記事では、デジタルによるホワイトカラーの生産性革命について述べた。ホワイトカラーが関わる業務プロセスのうち「デジタルな自働機械」化されたものは、それが何であろうと「ヒトの手間ゼロ、所要時間ゼロ、差分コストゼロ、間違いゼロ」で処理されるようになったために、団体戦としての生産性が飛躍的に拡張された、と。
この業務プロセスのシステム化は、もちろん日本でも行われた。
生産管理システム、販売管理システム、在庫管理システム、会計管理システム、人事管理システム……といった名称で、各部門がそれぞれ、自部門の業務プロセスのうち定型化できる部分を「部門システム」に落とし込んでいった。
ロータス・ノーツやExcelマクロ、VBAなどのツールを利用した、エンド・ユーザー・コンピューティング(EUC)と呼ばれる中小規模のシステム化も大流行。
「それまでは自分の部門がやっていた業務をシステムに置き換えていく」というEUCは、多少やる気のある現場社員が1人いればそこそこ作れてしまったので、日本のカイゼン文化にもぴったりとマッチして、とくに日本で隆盛を極めた。
こうして作られた部門システムは、確かに「デジタルな自働機械」であり、その部分については「4ゼロ」になったから、その部分の生産性は飛躍的に上がった。これがあちこちの現場で、大なり小なり行われた。
ところが。その結果、何が起きたか? 「部分最適の山」である。
とある業務プロセスが最適化することそれ自体には問題はない。しかし、それらの総体が全体最適にならなかったことは問題だ。
原因は、部分システムと部分システムのつなぎ目にある。結局そのつなぎの作業はヒトがやることになり、そこにボトルネックが集中してしまう。あなたの周りにも、以下のような弊害が発生してはいないだろうか。
部門システムと部門システムとの間のデータの受け渡しや変換作業がいわゆる「Excelバケツリレー」であるが、それを実際にやらされている社員にとっては、まさにバケツリレーなみの重労働であることが多い。
もっとひどいのは「二重入力」である。あるシステムから印刷した数字を見ながら、キーボードで入力していく、といった不毛な作業をさせられている社員は、きっとあなたの周りにもまだいるはずだ。
より本質的に深刻なのは、情報の鮮度が落ちることである。デジタルの処理速度に比べると、人間がやる作業は、それが5分であれ1時間であれ、ほぼ無限と言ってよいほど長い。
例えば、後述のようにERPがつなぎの時間ゼロで処理しているのに比べると、途方もないほどの時差が発生し、その分情報は古くなっていく。
結果、役員会のテーブルに載っている「最新の実績」は、実際には1カ月前のデータだというのはザラにある。ERPであれば1秒前までの最新のデータが見えているのに比べると、この差はあまりに大きい。
部門システムはそれぞれ、それを作った部門の視点や考え方を反映して作られているので、同じ単語を使っていてもその意味が違っていたりすることがある。
「製販調整会議」という名の会議があなたの会社でも行われていないだろうか。販売部門が向こう数カ月の販売数量の「予測」を出し、製造部門はそれに基づいて生産量を決めるのだが、販売部門は受注できた顧客には即納したいので多めの予測を出す。
いっぽう製造部門は言われた通りに作っていたら在庫の山になってしまうので、販売部門の予測を適当に何割か差し引いて生産する。結果、あらかじめ伝えた数量に基づいて生産しているはずなのに、ある製品は余り、ある製品は足りなくなる。足りない製品は取り合いになり、販売担当者と在庫担当者は日々「調整」という名の電話バトルに追われる。
なぜこんなことになるのか? 部門システムの壁をそのままにしているからだ。販売システムと生産システムをつないでお互いに見える化し、在庫コストを製造部門の責任ではなく販売部門の責任にすれば、販売部門はたちまち予測数量に慎重になる。システム=業務プロセスの分断をそのままにしているせいで、こうした「業務プロセスの分断に起因するコミュニケーション不全」があちこちに起きている。
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