「災害大国」――海洋プレートと大陸プレートの境界に位置した国土を持つ日本は、このように呼ばれることがある。2024年の元日に日本海側を襲った「能登半島地震」は記憶に新しい。
2024年だけでも国内に影響を与えたマグニチュード5以上の地震が11回も発生しており、近い将来生じると予想される南海トラフ地震や首都圏直下地震など不安は尽きない。その他、世界各地で増えつつある異常気象といった不安要素もある。
このようなことから近年では防災テックスタートアップへの期待が高まっている。そもそも防災テックはどこまで進歩しており、どのようなことができるのだろうか。
また、テクノロジーの導入が望まれる過疎地域ほど「予算がない」という問題には、どう対処すれば良いのだろうか?
危機管理ソリューションなどを提供するSpectee(東京都千代田区)が開催した「防災テックスタートアップカンファレンス 2024」のトークセッション「能登半島地震・気候危機から考える防災テックの現在地」の模様を紹介する。登壇者は前石川県副知事 西垣淳子氏、デロイト トーマツ ベンチャーサポート COO/パートナー 木村将之氏、Spectee代表取締役CEO 村上建治郎氏。
「防災テック」と耳にすると、「最新のテクノロジーを使ったツール」という印象を受ける。しかし、本来の意味は災害を予測、防止、軽減する技術のことなので、古くは土のう、水のう、長期保存食、防災無線なども含むものだ。
行政防災無線や備蓄倉庫に代表されるように、これらの技術を行政は必要に応じて取り入れており、市民を災害から守ろうとしている。
では、最新の防災テックを行政はどこまで活用しているのだろうか。一例として、能登半島地震にフォーカスしたい。
登壇した西垣氏は発災時、石川県副知事の職にあった。西垣氏は「災害対応で最も肝心なのは被災者の把握だ」と言う。要介護者はいるのか、規模はどのくらいなのかなどをまず把握する。しかし今回の震災で西垣氏は被災者の把握、情報伝達の難しさに課題を感じていた。
「能登半島は、温泉地であり観光客が訪問する場所だ。しかも1月1日ということで、帰省していた人たちもおり、住民ではない人たちも被害を受けた」と西垣氏。通常より地域にいる人が多かったこと、孤立集落があることなどから、被災者の状況把握に役立つはずの避難所からあふれたり、たどり着けなかったりした人が多かった。
そこで役立ったのがドローンである。空撮することで、どこにどれだけの人が救助を待っているかを把握して、自衛隊員が救助に向かえるようにしたのだ。
このように、最新テクノロジーを使ってある程度の対応はできたものの、加賀市と「AIを活用した防災・減災行政の強化に関する連携協定」を締結していたSpecteeが提供する技術や、それによって得た情報を基に行動するのは難しかった。
Specteeは、AIによりX(旧Twitter)などのSNSへ投稿された災害関連情報から偽情報を排除したり、位置情報や投稿画像から災害発生場所を特定して被害状況を迅速に特定したりするのに貢献した。
にもかかわらず「Specteeが得た情報が、対策会議にそのままの形で上がってこなかった」と西垣氏が当時の状況を明らかにした。
「県として、新技術を取り入れる、Specteeの情報を活用するということになっていたのに、情報を集約しづらい縦割り行政や、それらのつなぎ役になるべきなのにワークしていない知事室、既存のマニュアルに沿った手続きの優先などの結果、情報伝達が遅延するというケースが見られ、迅速で柔軟な意思決定ができなかったという課題が浮き彫りになりました」(西垣氏)
旧知の技術は取り入れられていても、ベンチャー企業が提供するような新しいテクノロジーを行政手続きと融合させるのがいかに難しいかという課題が能登半島地震で明らかになったのだ。
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