2024年、いなば食品は複数の炎上に見舞われた。新入社員の大量辞退、食品衛生法違反、さらには転職を希望する社員へのハラスメント疑惑など、週刊誌報道をきっかけに次々と発覚した不祥事が世間の注目を集めた。
当時、一部のSNSでは「不買運動を起こすべき」という趣旨の投稿が盛り上がったものの、蓋を開けてみると、いなば食品の売上・利益は増収増益の順調な決算となった。
いなば食品が発表した2024年度上半期決算によると、同社の売上高は前年同期比で27%増加の697億円となったという。純利益も同じく9%増加しており、不買運動の声もむなしく、炎上前の業績よりも炎上後の半年間の方が良い業績になったのだ。
本記事では、いなば食品が業績上の甚大な影響は受けておらず、いわば“許されてしまった”状況にある背景を2つの観点から探りたい。
いなば食品の子会社・いなばペットフードの主力商品「CIAOちゅ〜る」は猫用のおやつとして高い評価を受けており、ペットの飼育に当たって「必需品」と言っても差し支えないほどのブランド力を有している。筆者も猫を飼う者の1人として、常にストックしている。
消費者と、その先にいる猫たちの日常生活に深く浸透しており、炎上が起きたとしても消費者が購入を控えづらい。仮に代替先を考えるとしても商品の特性上、候補が限られる上に、猫にとって負担となる。
このようにペットフードは、企業にとって値上げなどをしても売り上げが落ちにくい利点を持つ商品だ。一方で消費者は、仮に不祥事が発覚しても購入を続けざるを得ない状況にある。
このため、炎上による社会的制裁が売り上げに及ぼす影響は限定的だったと見られる。もともと、不祥事を軽視しやすいビジネス環境が構築されていたのだ。
いなば食品の炎上が“許されてしまった”もう一つの理由は「炎上の希薄化」にあると考えられる。
SNSで同時多発的に炎上案件が発生した際、個々の炎上が持つ社会的影響力が分散され、結果として不買運動や社会的制裁が短命に終わる現象のことだ。
かつては企業の不祥事がマスコミなどを通じて長期間にわたり批判の対象となり、不買運動が持続することもあった。しかし現在では、数日もたたないうちに別の炎上案件が話題となり、消費者の関心はそちらへと移ってしまう。このように「炎上の希薄化」によって、企業が社会的制裁を受ける期間が短くなる傾向が見られる。
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