業務効率化に必須な「4つのポイント」 ブルーカラーのカイゼンをまねても、ホワイトカラーには無意味ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか?(1/2 ページ)

» 2024年11月15日 07時00分 公開
[村田聡一郎ITmedia]

 ホワイトカラーが業務を効率化したいと考えるとき、トヨタの有名な「カイゼン」文化のようなブルーカラーの効率化手法をそのまま輸入しても、うまくいくわけではない。

 本連載の第1回でも述べた通り、扱う対象の「性質の違い」があるため、これを踏まえて考える必要がある。業務効率化する際、おさえておかなくてはいけない4つのポイントを解説する。

(1)ブルーカラーが扱うのは「モノ」、ではホワイトカラーが扱うのは?

 ブルーカラーが従事している作業の大半は、「フィジカルなモノ」を対象としている。そしてそれは、ごく一部の例外を除き、「多数の」「均質な」モノである。

 製造業が生産する工業製品がその典型なのは言うまでもないが、例えば農家が作っている野菜、漁業で水揚げする魚、さらには第三次産業が提供するサービスもほぼ同様である。交通機関、レストラン、携帯電話回線、スーパーマーケット、病院なども「多数の客に、一定の品質を保ったフィジカルな価値」を提供している。

 それに対し、ホワイトカラーが従事している作業の大半は「情報」を対象としている。そして情報には、モノと決定的に違う点がある。求められているのは「できるだけ有用な」情報が「一つ」だけである(多数作る必要がない)ということだ。

 ホワイトカラーの仕事もその大半は、情報を「作りあげる」(アウトプットする)ことによって結実する。例を挙げてみよう。

  • 職種:アウトプット
  • 営業:顧客A社向けの提案書
  • 研究開発:製品Aの型式Bの部品表(BOM)
  • 生産管理:製品Aの生産計画
  • 経理:決算発表資料
  • 企画:新商品Aの企画書
  • 総務:施設・備品管理マニュアル
  • 調達:購買調達ガイドライン
  • 人事:事業戦略に合わせた人員採用計画
  • マーケティング:商品AのテレビCMや販促キャンペーン計画
  • 広報:話題性のあるタイムリーなプレスリリース

 これらはいずれも物理的なモノではなく、情報である。そして情報は、一つあればよい。

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 もちろん、上に挙げたような「成果物」がはっきりとしている業務だけではない。

 ホワイトカラー社員が1日の大半を費やしているのは、もっと手前の「情報収集」や、上司への「報告」や部下への「情報共有」、関連部署との「調整・相談」「合意形成(≒根回し)」、そしてそれらのために使う「資料作成」や「メール・電話」ではないだろうか。

 そしてこれらは全て「できるだけ有用な情報を一つだけ作る」という業務である。

 「一定の品質のモノを多数作る・届ける」業務と、「できるだけ有用な情報を一つだけ作る・届ける」業務は、お互いにまるで違う。ということは、それをうまく行うための方法論もまた異なるはずである、ということ自体にも納得していただけることだろう。

(2)情報を作る「作業量」と「価値」は比例しない

 ブルーカラー職場では基本的に、投入されたヒトの作業時間と、その結果として生み出される価値の量はほぼ比例する。一定の品質を持ったモノやサービスを多量に、安定的に作る・届けることがその使命なので、2倍量の価値を生産しようと思えば、2倍量の作業時間を投入しなくてはならない。

 一方、ホワイトカラーが作る情報は? こちらも時には多くの人間が関わり、多大な作業時間を投入して作っていくわけだが、そのために投入された作業量と、その結果として出来上がった情報の「価値」の間には、多くの場合、ほとんど関係がない

 なぜだろうか? それは情報の価値は、常に相対的だからである。情報の価値は、その情報そのものよりも、その情報の受け取り手の状況によって圧倒的に左右される。

 実は、情報そのものには価値はない。情報の価値は(1)適切な相手がそれを受け取り、(2)その意味を理解して行動を取り、(3)その結果として何かしらの経済的・社会的価値が発生したとき、にしか発生しないのである。

 加えて(4)情報の価値は、タイミングが決定的に重要であることが多い。情報の価値はそのタイミングによって大きく影響を受け、タイミングがずれるとその価値はしばしばゼロになる。

 それは上記の(2)「行動に移す」かどうか、かつ(3)「その結果として経済的・社会的価値が生まれる」かどうか、がタイミングによって大きく左右されるからである。

 読者の中には「何をいまさら。当たり前のことではないか」とお感じの方もいるかもしれない。ブルーカラーであろうとホワイトカラーであろうと、企業活動において全ての人件費はコストであって、そのコストがリターン=利益を出すことに結び付いていれば、そのコストは正当化される……というだけのことだろうと。

 その通りである。ということは、裏返して言えば、リターン=利益に結びついていない活動については、そのコストは正当化されないということでもある。

 つまり、あなたやあなたの部下が日々行っている「情報収集」と「資料作成」、そのための「打ち合わせ・会議」とその「日程調整」、その前の「合意形成(≒根回し)」やその後の「議事録づくり」、業務上の「報告・連絡・相談」、あらゆる「メールを書くこと・読むこと」、といったホワイトカラー業務の大半は、企業レベル・投資家レベルの視点でいえば単なるコストにすぎない

 これらの活動は、上記(1)〜(4)のテストを通った場合のみ、結果的に価値があったことになるのである。

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 この点は、ホワイトカラーにとっては、非常に厳しい問いを突き付ける。あなたが日々行っている仕事、つまり時間を投入して作っている情報に価値があるかどうかは分からない、そしてしばしば価値はゼロである、というのだから。

 一方で、いいニュースもある。

 投入した「時間」と「価値」がほとんど比例しないということは、裏返せば「価値」を大幅に高めつつ、「時間」は大幅に削減できる可能性も大いにある。

 ポイントはとにかく、作業にかけた時間と価値の量が比例するブルーカラー業務での常識を漫然とホワイトカラーに当てはめるのをやめ、ホワイトカラー業務に適合した生産性向上策を考える、ということに尽きる。

 一言でいえば、ブルーカラーには「与えられた仕事を一生懸命に、丁寧にやりなさい」という働かせ方でもよい。しかしホワイトカラーに対しては、「一生懸命に、丁寧にやるだけではいけない。成果=利益につながるか? を常に考えながら行い、つながらない場合には時間を投入することをやめなさい」と指示しなければならないのである。

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