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「失われた25年」今こそ直視すべきその根源理由 必要なのは「働き方改革」ではない【新連載】ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか?(1/2 ページ)

» 2024年10月23日 07時00分 公開
[村田聡一郎ITmedia]

 日本企業は生産性が低い──日本経済が国際的な競争力を失っていることを語るとき、必ずと言っていいほどこう指摘される。この言葉、実は半分合っていて、半分間違っている。

 日本企業で働くブルーカラー社員の現場力、常に効率性を向上し続ける“カイゼン”力は、世界に誇れる水準だ。一方で、問題が山積みなのがホワイトカラー社員の職場だ。例えば、こんな課題に見覚えがないだろうか。

会議準備やメール対応もこなしつつ、忙しく働いている。しかし、気付けば「今日何を成し遂げたのか」分からないし、プロジェクトは遅延するばかり

チームの皆で毎日必死に業務を回しているが、ふと振り返ると間接業務が多い

 なぜ、日本のホワイトカラーの生産性は低いままなのか。「失われた25年」を作り出してきてしまった日本の経営者が今こそ直視すべきこの問題を、詳しく考えていきたい。

筆者は2024年5月下旬に書籍「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか〜日本型BPR 2.0」を上梓し、おかげさまで3カ月を待たずに3刷が決まるなど、一定のご評価をいただいた。本連載では、そのエッセンスをお届けしたい。

生産性が低いままである理由とは 日本企業が直視すべき問題

 25年は「なぜ」失われたのか? 何がまずかったのか? その原因を正しく認識しなければ、適切な手を打つことはできない。そしてそのまずい状況は、今も続いている。

photo 図表1ー1

 図表1ー1をご覧いただきたい。日本の名目GDPを、比較対象としての米国・独国とともにプロットしたグラフである。2000年を1.0として重ねてあるので、値の大小には意味がなく、折れ線の角度(傾き)だけに着目していただきたい。

 日本の1990年代半ばまでの経済成長の角度にはまさに目を見張るものがある。しかしそれ以降の停滞もまた顕著であることがひと目で分かる。一方の米国や独国はというと、1990年代までの伸びは日本ほどではないものの、それ以降も一貫して成長している。

 2000年前後の日本に何が起きたのか? あるいは「起きなかった」のか?

ホワイトカラーの働かせ方が間違っている

 ほぼゼロ成長が25年も続いた結果、現在の日本の置かれた状況は厳しい。経済的に言えば、日本はもはや、先進国ではなくなりつつある。「日本人はみな真面目に、頑張って働いているが、頑張り方が間違っているのでは」と考えるべき時期に来ているのではないだろうか。

 何が間違っているのか? それは「ホワイトカラーの働き方」、より正確に言えば企業・組織による「働かせ方」である。一人一人の人間性が尊重され、最大のパフォーマンスを発揮していきいきと働ける、そうした環境が実現できていないのだ。

 トヨタ生産方式に代表されるカイゼン文化によって、生産性を高め、現在に至るまで日本企業を支えている「ブルーカラー社員の現場力」に対し、日本のホワイトカラー社員は「グレーゾーン業務」、つまり顧客価値にあまり影響がない社内業務や調整業務に多くの時間を費やしている。

 「ホワイトカラーの生産性が低い」という一般的な認識だけはあるが、「なぜ低いのか」を本質的に考えてこなかったし、「ではどうしたらよいのか」についても、多くの経営者や有識者、学者、政府、マスコミは明快な解を提示してこなかった。

 いくら長時間、熱心に働いたところで、それが顧客価値につながっていないのであれば、生産性が低いのも当然である。

 ではその間、諸外国はどうしていたのかというと、日本とは異なりホワイトカラーがグレーゾーン業務にいそしむことを許されなかったため、結果として生産性を高め続けてきた。自社のホワイトカラー社員たちの共同作業に「デジタルな自働機械」というゲタを履かせ、全体最適を実現して、より効率よくアウトプットを出すという組織能力を、25年かけて、徐々に高めてきたのだ。

 日本の企業リーダーが好んで口にする「現場力重視」「人中心」は、デジタル化が進んだ21世紀のホワイトカラー業務においては「マネジメント不在」とほぼ同義になり得る。ボトムアップな「ヒトの現場力」とトップダウンの「全体最適の追求」、両方の合せ技が必須な時代なのだ。ホワイトカラー社員たち個々人がサボっているわけではない。経営者が働かせ方を間違っているのである。民間企業だけでなく、政府・自治体・学校などの組織も状況はまったく同じだ。

 組織のリーダーたるあなたは、このことをはっきりと認識しなくてはならない。そしてあなたの部下たちのために、あなたの責任を果たさなければならない。

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 現場で真面目に、懸命に働いているホワイトカラー社員たちは、自ら「この作業はやめましょう」と言うわけにはいかない。「やめてよい」「全体視点・顧客視点で変えていこう」と言えるのは、その組織の責任者だけなのだ。

 なぜ、ブルーカラーの現場ではうまく行ったカイゼンが、ホワイトカラーではうまくいかないのか? それは、ブルーカラーとホワイトカラーは、仕事の性質が根源的に違うからだ。ブルーカラーは主に「一定の品質の・多数の・モノ」を扱う職種であるのに対し、ホワイトカラーは主に「できるだけ有用な・一つの・情報」を扱う職種であって、そのアウトプットの出し方も違う。

 従ってブルーカラーに有効だった方法論、例えば現場主導のカイゼンをホワイトカラーにそのまま当てはめても、成果が出るとは限らないのである。この点については、連載第4回で詳しく解説する。

 なお、本連載においては「ブルーカラー」と「ホワイトカラー」は単なる職種の違いであり、どちらかが上/下だという見方は一切していないことを念のため付記しておきたい。

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