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生成AIでコンタクトセンターを改革 住信SBIネット銀が効率性の「次に目指すもの」【総力特集】コンタクトセンター改革

» 2024年11月18日 08時30分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 銀行への電話でよく耳にする「しばらくお待ちください」。住信SBIネット銀行は最新の生成AI活用でこの課題に挑んでいる。2024年8月、同行は「GPT-4o」を活用した電話自動応対システムを導入。顧客の問い合わせに即座に対応できる体制の構築を進めている。

 「電話で問い合わせても結局たらい回しになる二度手間は避けたい」。同行業務部の山本博一氏はそう話す。2020年から段階的に進めてきたコンタクトセンター改革で、チャットなどテキストベースの応対を全体の7割まで高めた同行。今回のAI導入は、残る電話応対の革新に挑むものだ。

 顧客の声は商品改善やサービス向上の貴重なデータだ。同行は通話内容のテキスト化や応対履歴の分析を通じ、「ログインできない」といった顧客がつまずきやすい場面を特定。システム改善や案内方法の工夫につなげている。人とAIの共存により、対応品質と効率性の両立を目指す取り組みが始まっている。

住信SBIネット銀行が、2020年から進めてきたコンタクトセンター改革とは?(写真提供:ゲッティイメージズ)

チャットで変わる顧客対応、7割が"非電話"に

 「できるだけテキストでの対応に誘導する」。住信SBIネット銀行が2020年にこの方針を打ち出してから、同行のコンタクトセンターは大きく変わった。現在では顧客からの問い合わせの約7割がチャットやWebフォームを通じたものとなっている。

 この改革の背景には、電話対応の限界があった。「お電話ですと、なかなかつながらなくてお待たせしてしまうことが多い」と山本氏は説明する。特にネット銀行の場合、「ログインできない」という問い合わせが多く、これが解決できなければ全てのサービスが使えなくなる。迅速な対応が求められる中、電話だけでは顧客の期待に応えられない状況になっていた。

 テキストベースの対応には、明確な利点がある。「チャットなら熟練したオペレーターは同時に複数の顧客対応が可能」(山本氏)だ。1人のオペレーターが2〜3人の顧客に同時に対応できるため、待ち時間の削減につながる。

 効率化のポイントは、現場の知見を生かしたナレッジ管理だ。同行は頻出する質問に対する回答テンプレートを用意している。一般的なAIによる自動提案システムは採用せず、「オペレーターが使いやすい形でナレッジを整備する方が、的確な回答を探せる」(山本氏)という判断だ。経験豊富なオペレーターには、体系的に整理された情報の方が使い勝手が良いためだ。

 ただし、全てをテキスト対応に移行するわけではない。「電話で解決したいという顧客は確実にいる」(山本氏)との認識から、カード紛失やローンの相談など、特に重要度の高い問い合わせについては、電話窓口を維持。テキストと電話、それぞれの特性を生かした対応体制を築いている。

住信SBIネット銀行 業務部の山本博一氏

GPT-4oが即答、消える"お待たせ音楽"

 音声対応の強化の一つが生成AIを活用した電話応答システムの導入だ。2024年8月、同行は最新の生成AI「GPT-4o」を活用した電話自動応対システムの導入を開始した。OpenAIが開発したこのAIモデルは、従来モデルと比べて高い応答精度と自然な会話能力を持つという。

 従来、電話窓口では「この窓口では対応できません」と案内して、結果的に顧客に二度手間を強いるケースが少なくなかった。「せっかくお電話をいただいたのに、窓口で回答できないのであれば、AIで回答してしまおうと考えた」と山本氏は導入の狙いを説明する。

 新システムは、米Kore.ai社の対話型AIプラットフォームにGPT-4oを組み込んで構築。顧客が電話で問い合わせ内容を話すと、AIが内容を理解して適切な回答を行うか、必要に応じてオペレーターへの転送を判断する。「お客さまの反応を見ていると、比較的ポジティブに受け止めてくれている」(山本氏)という。

 効果は明確だ。「以前はストレスに感じるほどお待たせしていたお客さまもいたが、今はそういった事態はほとんど発生していない」と山本氏は話す。AIによる即時対応が可能になったことで、待ち時間の問題が大幅に改善された。

 ただし、現状はまだ発展途上だ。山本氏は「今はお客さまの発話の意図をわれわれのナレッジ(知識データベース)に当てはめて一問一答で返すことしかできていない」と課題を指摘する。今後は対話を通じて顧客の意図をより正確に把握し、的確な回答ができる仕組みを目指す。

 まずは電話チャネルでの対応範囲を広げ、その後はテキストチャネルへの展開も検討する。「お客さまのニーズがあるところには拡大していきたい」(山本氏)として、段階的な機能拡充を進める方針だ。

8月、住信SBIネット銀行は最新の生成AI「GPT-4o」を活用した電話自動応対システムを導入(プレスリリースより)

データで探る顧客の"つまずき"

 問い合わせデータの分析は、サービス改善の重要な手掛かりとなる。住信SBIネット銀行では、テキストや音声による問い合わせ内容を分析し、顧客がどのような場面で困っているのかを把握する取り組みを進めている。

 「例えばログインができないという問い合わせでも、初回ログインでつまずいているのか、アプリの不具合なのか、長期間使っていなかったためにパスワードを忘れたのか。場面によって対応は変わってくる」と山本氏は説明する。問い合わせ内容を細かく分析することで、効果的な改善策を見いだすことができるという。

 同行のコンタクトセンターでは、応対品質を測る指標としてNPS(顧客推奨度)を採用。テキスト対応後にアンケートを送信し、顧客満足度を継続的に計測している。「繁忙期は相対的に満足度が下がる傾向にある」(山本氏)として、応対品質の維持・向上に努めている。

 一方で、応対品質だけでなく、効率性も重視する。オペレーターの評価指標には、1時間あたりの対応件数や処理時間なども含まれる。「応対品質が良くても、一定数の処理速度を維持できなければ効率が悪い」(山本氏)ためだ。

 さらに、口座開設直後の問い合わせ率など、サービス全体に関わる指標も設定。「問い合わせの抑止策が効いているかどうかを判断する」(山本氏)材料として活用している。問い合わせの多い事項については、システム開発による解決や、顧客が迷わない位置への案内掲載といった対策を講じている。

 同行の口座数は3年前の1.5倍となる770万口座に増加しているが、こうした取り組みにより、コンタクトセンターの人員規模を維持したまま運営できているという。データ分析に基づく継続的な改善が、効率的な運営を支えている。

口座数は1.5倍に増加している一方、コンタクトセンターの人員規模は維持したまま運営できている(写真提供:ゲッティイメージズ)

人とAIの共存、品質向上への道筋

 AIの活用が進む中、住信SBIネット銀行が次に見据えるのは、人による対応の質の向上だ。「AIなど無人で対応する部分が多くなってきた分、人が対応する場面では、それに見合った品質を提供していかなければならない」と山本氏は強調する。

 特に重視するのが、顧客一人一人のニーズに寄り添った対応だ。「寄り添って話を聞いてほしい方、相談に乗ってほしい方には、しっかりとお話を伺い、親身に答える」(山本氏)という。対応品質の向上に向け、オペレーター同士で応対のテクニックを共有する場を設けたり、優れた対応をした職員を表彰したりする取り組みも行う。

 ただし、これは単なる接客の丁寧さを意味するわけではない。「テキパキと用件を済ませたい方もいれば、じっくり相談したい方もいる。経験豊富なオペレーターは、そうした違いを会話の中で感じ取って対応を変えている」(山本氏)という。

 AIアシスタントについても、課題は山積みだ。より自然な対話の中で顧客の真の要望を引き出せる仕組みの実現には、まだ時間がかかる。

 金融サービスのデジタル化が進む中、顧客との接点は限られたものとなっている。住信SBIネット銀行の取り組みは、AIの活用で効率化を図りながら、人による対応の質を高めるという方向性を示した。

 一方で、応対品質と業務効率の両立という古くて新しい課題は依然として残る。NPSは繁忙期に低下する傾向にあり、顧客満足度の安定的な向上には至っていない。テキストと電話、AIと人、それぞれの特性を生かした最適な組み合わせを見いだす試行錯誤は、まだ続きそうだ。

ネット銀行の中でも住宅ローン事業の強さで知られる住信SBIネット銀行

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