現場に「ムダな仕事を省け」と言っても無意味なワケ 生産性向上の落とし穴ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか?(3/3 ページ)

» 2024年11月20日 07時00分 公開
[村田聡一郎ITmedia]
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トップダウンの改善活動

 一方で、日本国内で実施されているケースは非常に少ないが、トップダウン、経営主導の改善活動というものもある。この特徴は、目標値が「上」あるいは「外」から示されることである。例えば「現在の2分の1の人員で、または2分の1のリードタイムで、あるいは2分の1のコストで、やれる方法を考えてください」といったものだ。

 日本のどの現場も、すでに知恵と汗を絞ってギリギリと効率を上げてきている。それをさらにいきなり2倍にせよと言われたらどうなるか?

 もちろん現場は、最初は「無理です」と言うだろう。だが経営も遊びで言っているわけではない。その必要があるから言うのだとしたら? 現場に対しては、「難しいのは承知で、やれる方法を考えてくれ」と言うしかない。

 すると現場はどうするか? 「2分の1の人員(orリードタイムorコスト)でやることが前提であるならば、もうカイゼンのレベルでは到底無理。大胆に、これまでとは違うやり方を取り入れるしかない」と考えるだろう。

 まず、トレードオフがある前提で、制約を外して考え、実施する。次に「ムダ」とは言い切れなくても、優先順位が低いグレーゾーン業務はどんどん削っていく。

 これができれば、ホワイトカラー職場でも、労働生産性を2倍にする(つまり、同じ仕事を半分の人員でやり、余らせた人員を「他の仕事」に振り向ける)ことは可能である。

photo (提供:ゲッティイメージズ)

経営者の「働かせ方」が間違っている

 ブルーカラーでもホワイトカラーでも、トップダウンの少人化目標がない限り、結局、生産性は上がらない。

 ということは? トップが現場に対して「カイゼンせよ、ムダを省け」と言うのは、無意味なだけでなく、無責任なのだ。上が言わなくてはならないのは「少人化せよ、そのためにはグレーゾーン業務をやめてよい」だ。「100%ムダ」と言い切れる業務などホワイトカラーの現場にはないのだから。

 「少人化なんてとんでもない、今でさえ仕事が回っていなくて、社員が疲弊しているのに」とお感じの方もいらっしゃるだろう。現場はそう思うかもしれない。

 だがリーダーであるあなたは、その考え方ではいけない。そもそも「仕事を回している」のが「人間」であるところに問題があるのだ。定型化できるところを機械やソフトウェアにやらせ、その部分は「自働化」する「仕組み」を考え、構築するのがあなたの仕事だ。

 あなたは部下とあなた自身の「動き」を「働き」に、「作業」を「仕事」に変える努力をしなければならないのである。


 ここまで全5回にわたって、「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか」について考察してきた。読者の皆さんにとって既知のこともあれば「目からウロコ」な内容もあったかもしれない。ご自身の職場の状況をあらためて整理するヒントになれば幸いである。

 「ではこの状況を脱し、ホワイトカラーの生産性を本当の意味で上げていくにはどうしたらよいのか?」という部分についても興味をお持ちであれば、拙著「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか〜日本型BPR 2.0」も参考にしていただきたい。

著者情報:村田聡一郎

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SAPジャパン株式会社 コーポレート・トランスフォーメーション ディレクター

外資系IT企業、スタートアップを経て、2011年SAPジャパン入社。「ITではなく経営目線から」を信条とし、顧客の企業変革に伴走する。

海外事例にも精通し、講演・執筆など多数。著書に「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか〜日本型BPR 2.0」「Why Digital Matters? 〜“なぜ”デジタルなのか」(プレジデント社)。SAP「COO養成塾」事務局長。白山工業株式会社 社外取締役。「合い積みネット」共同創業者。米国ライス大学にてMBA取得。

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