“不祥事イメージ”払拭できる? KADOKAWA買収検討、ソニーの狙いは

» 2024年11月22日 10時45分 公開
[古田拓也ITmedia]

 ソニーグループがKADOKAWAの買収を検討しているとの一部報道がエンターテインメント業界を揺るがしている。KADOKAWAは、出版を祖業としつつも多岐にわたる事業を展開し、特に世界的に高い評価を受けたゲーム『ELDENRING』のようなゲーム・IP開発で注目を集める企業だ。

 KADOKAWAの株価は報道翌日にストップ高となり、23%上昇した。一方で、11月20日には東京証券取引所が「買収に関する不明確な情報が生じている」という旨の注意喚起を行ったこともあり、翌日21日には5%ほど値を下げ、乱高下の様相を呈している。

 ソニーGがKADOKAWAを買収する狙いはどのようなものなのか考えたい。

ソニーの買収意図と戦略背景

 ソニーGは、近年エンターテインメント分野での存在感を急速に拡大させている。同社は映画、音楽、ゲームの3分野を柱とする「IP」(知的財産)戦略を掲げ、米国のアニメ配信サービス「Crunchyroll」やアニメ制作会社「Aniplex」の買収をはじめとした積極的なM&Aを行い成長を続けてきた。

 またソニーGは7月、任天堂との訴訟問題を抱える「パルワールド」のライセンス管理企業に対して傘下のアニプレックスと合同で出資し、物議を醸した。業績は増益を続けており、大手企業としては珍しく攻めの姿勢が顕著だ。

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 ソニーGの買収攻勢を確認すると、米メディア大手持株会社のパラマウント・グローバルの買収合戦から撤退したことが記憶に新しい。パラマウントといえば『ウルフ・オブ・ウォールストリート』や『アイアンマン』シリーズのような映画が有名な会社だ。CBSテレビという米国の大手テレビ局を傘下に持つ。

 当初は数千億円の案件だったが、映画制作会社のスカイダンスに合計で1.3兆円程度で買収され、ソニーGは競り負けた形となる。そんなソニーGにとって、現在価格にして5800億円の時価総額を有するKADOKAWAを買収するのは、有望な代替案なのかもしれない。

 また、ソニーGとKADOKAWAは近年、資本業務関係において連携を強化してきた経緯がある。関係の浅い会社を買収するケースとは異なり、親和性が見込める点に注目したい。

 ソニーGは2021年にサイバーエージェントと共同で増資を行い、KADOKAWAは約100億円もの資金調達を成功させた。現在は大株主のトップ10からは外れているものの、持ち株比率自体は出資時の2%を維持しており、大株主として同社と関わりを持ち続けている。

 こうした経緯を踏まえると、今回の買収報道は「単なるウワサ話」程度というよりは、ある程度の現実味が伴っているといって過言ではないだろう。資本提携の延長として、ソニーGが持つエンターテインメント事業全体の強化を目的とした包括的な動きである可能性もありそうだ。

不祥事リスクも……SONYはセオリー通り「割安を買う」?

 KADOKAWAといえば最近は不祥事が続いているイメージもあり、ソニーGのブランド戦略と合致するのかという疑問の声も小さくない。

 KADOKAWAは2022年の東京五輪・パラリンピックを巡る贈賄事件により、元会長の角川歴彦氏が逮捕され、企業倫理の面で問題視された。また、2024年にもランサムウェア被害にあったことで、関係者の情報漏洩(えい)やニコニコ動画の長期間にわたるサービス停止など、ゴタゴタも相次いでいた。

 このような企業を買収するメリットは、外部からは一見理解しづらいかもしれない。しかし、戦略的視点で考えると、このような決定をする例は決して珍しくない。

 例えば、米ウォルト・ディズニー・カンパニーが、経営面での課題を抱えていた米マーベル・エンターテイメントや米ルーカスフィルムを買収したように、“割安投資”の文脈では有効な過去事例も少なくない。

 また、業界は違うものの、マネックスグループとコインチェックの事例も取り上げておきたい。2018年、日本の仮想通貨取引所コインチェックは、580億円相当の仮想通貨「NEM」が流出するという大規模なハッキング被害を受け、業界全体に衝撃を与えた。

 同年、マネックスグループがコインチェックを約36億円で買収。買収後、マネックスは金融商品取引業者という厳格なガバナンス体制の企業体質を生かし、信頼回復を図った。その結果、騒動から4年後における22年3月期の営業利益は138億円にも達し、グループの長期的な収益エンジンとなったほか、後のNTTドコモによる子会社化に当たっても有意に働いたとみられている。

実はサイバー攻撃でも業績自体は悪くない

 著名なIPやブランドを有する企業は、それが属する企業によっても伸びる可能性が変わってくる。近年のKADOKAWAは不祥事や炎上イメージが先行するが、業績自体は悪くない。

 直近の年間売上高は2581億円、営業利益も184億円であり、2024年度はサイバー攻撃による影響が出るが、売上高自体は増収見込みで、多少の減益があっても黒字基調が維持される見込みだ。IPビジネスの強さを物語っている。

 一方で、過去の問題を抱える企業を買収する際には、適切なリスク管理が欠かせない。ソニーGがこれを実現するためには、KADOKAWAの従業員や外部ステークホルダーとの信頼関係を慎重に築く必要がある。また、法的および倫理的リスクを最小限に抑えるための透明性の高い経営が求められる。

 KADOKAWAの買収は短期的にはリスクが伴うものの、長期的にはソニーのエンターテインメント事業をさらに強化する可能性を秘めている。

 繰り返しになるが、現時点で、ソニーとKADOKAWAの間で正式な合意が発表されたわけではない。しかし、両社がこれまで築いてきた協力関係や戦略的な方向性を考えると、買収が実現する可能性は決して低くはなさそうだ。

 特に、ソニーGがエンターテインメント事業の中心に据えているゲーム分野での競争力を強化するため、KADOKAWAの持つ知的財産や制作能力がどのように活用されるかが鍵となる。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


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