実は「働き手の数」は増えていく しかし、労働力はどんどん不足……どういうことか?(1/2 ページ)

» 2024年11月30日 10時15分 公開
[中俣良太ITmedia]
株式会社パーソル総合研究所

この記事は、パーソル総合研究所が10月25日に掲載した「2035年の労働力不足は2023年の1.85倍―現状の労働力不足と未来の見通し」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて掲載当時のものです。


 新型コロナウイルス感染症の収束後、経済活動が再開されるにつれ、日本社会において再び深刻な労働力不足が課題として浮上している。

 最近では、労働力不足に起因する企業の営業時間・営業日数の短縮、さらにはサービス提供体制の縮小といった影響などが、メディアを通じて頻繁に報じられるようになった。

 この問題は単なる一時的な現象ではなく、少子高齢化に伴う人口減少という長期的な背景が密接に関連している。日本の労働力不足は今後より一層深刻さを増すことが予想される中、「労働市場の未来推計2035」ではどのような傾向が見られているのか。

 本コラムでは、現在の労働力不足の状況を確認するとともに、今後の労働市場の見通しについて、具体的なデータに基づきながら解説していく。

労働力不足の現状

 はじめに、労働力不足の現状について見ていこう。労働力不足を表す指標はいくつかあるが、本研究では「未充足求人」のデータに焦点を当てている。

 未充足求人とは、厚生労働省の雇用動向調査で調査されており、企業が求める人材を確保できていない求人の数を指す。私たちの推計では、この未充足求人数が基になる“欠員率”(常用労働者数に対する未充足求人数の割合)を就業者数と掛けることで労働力不足の数を算出(※1)。

(※1)就業者の中には、企業に属する雇用者以外に、自営業主や家族従業者も含まれる。本研究においては、企業に属さない層においても同様の欠員率である前提を置いている点に留意されたい。

photo

 値が大きくなるほど、企業が必要とする労働力を確保できておらず、労働力不足が深刻であると解釈できる。2023年の労働力不足においては、「就業者数6747万人×欠損率2.8%=労働力不足(人手)189万人」となり、「2023年の労働市場では189万人の働き手が不足している状況」と捉えることができる。

就業者数6747万人×欠損率2.8%=労働力不足(人手)189万人

 また、現状不足している189万人の働き手に関しては「その年の平均時間分働く就業者」を仮定している。総務省「労働力調査」のデータを基に計算したところ、就業者1人が1週間当たりに働く時間は2023年時点で平均35.6時間(※2)。

(※2)2023年の延週間就業時間(239,999万時間)を就業者数(6,747万人)で割ることで算出。

photo

 つまり、現状の労働力不足を「労働投入量」(人手×労働時間)の観点で捉えた場合、1週間当たり約6720万時間、1日当たり約960万時間の労働力が不足していると解釈できる。

 労働力不足(人手)189万人×週間労働時間(就業者1人当たり)35.6時間=労働力不足(1週間あたり)6720万時間、労働力不足(1週間あたり)6720万時間÷7日間=労働力不足(1日あたり)960万時間

 コラム「労働力は『人手』から『時間』で捉える時代へ」で述べた通り、われわれの推計では労働力不足を労働投入量、つまり「時間」の観点で捉えて推計している。現状を把握する上で、時間単位で捉えた際の労働力不足(960万時間/日)も押さえるべきポイントだ。

 上記の計算式で算出した労働力不足の推移が図表1である。リーマンショック直後の2009年から、2019年までは上昇傾向をたどっている。新型コロナウイルス感染症が流行し、経済が衰退することで一時落ち込みを見せるも、最近は再び2019年以前のペースで深刻さを増していることが分かる。

photo 図表1:労働力不足の推移【2000〜2023年】 出典:厚生労働省「雇用動向調査」、総務省「労働力調査」をもとに筆者作成

2035年の労働力不足

 では、今後の労働力不足はどうなっていくのだろうか。前回の推計(「労働市場の未来推計2030」)で開発した予測モデルを改善・アップデートして推計を行ったところ、「2035年、日本の労働市場では1日当たり1775万時間の労働力が不足」という結果が導かれた(図表2)。

photo 図表2:2035年の労働力不足の予測 出典:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2035」

 2023年の労働力不足960万時間/日よりも1.85倍大きい数である。今の組織で労働力不足を少なからず実感している読者は、その実感している倍の労働力不足に陥る場合を考えてみると、深刻さをイメージしやすいのではないだろうか。

 なお、1775万時間/日の労働力を働き手の数に換算してみると、384万人相当の不足を意味する。今回は、外国人就業者も労働供給の一部として含めているが(※3)、その点を加味した場合、前回の推計(労働市場の未来推計2030)から大きな見通しの変化は見られない。

(※3)前回の推計(「労働市場の未来推計2030」)は「日本人のみ」の労働供給を算出し、2030年の労働力不足を推計していたが、今回は現実に即した労働時給状況を捉えるために、外国人も含めた「総人口」を推計対象とした。日本に住む外国人の数は年々増加傾向にあり、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によると、2070年には総人口の約10%が外国人となることが予測されている。

 また、今回の推計では、前提条件の一つに「今後ほとんど経済成長しないシナリオ」を置いている。この想定以上に日本経済が成長した場合、労働力不足はより一層深刻になる点には留意されたい。

       1|2 次のページへ

Copyright © PERSOL RESEARCH AND CONSULTING Co., Ltd.All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR