深刻化する労働力不足の要因を分析するために、「人手」と「働く時間」に分解して見たところ、興味深い傾向が見られた。それは、2035年にかけて「働き手の数が増えていく」傾向だ。
2023年時点での就業者数は6747万人いるとされているが、2030年では6959万人、2035年では7122万人と増えていくトレンドが見込まれている(図表3)。
人口減少が着実に進む中、労働人口も減少するかと思いきや、労働供給としての働き手の数は今よりも約400万人増えていく傾向が今回確認されたのである。
就業者が増えるにもかかわらず労働力不足が深刻化する背景には、コラム「労働力は『人手』から『時間』で捉える時代へ」 と同様に「就業者の多様化」と「労働時間の短縮」の2つの要因が影響している。
つまり、(1)就業者全体の中で、短時間で働く傾向にあるシニアや女性、外国人などの占める割合が大きくなること。また、(2)働き方改革などの影響により、就業者全体の働く時間が短くなることで、就業者の数は増えていくものの、労働需要には追い着かず、労働力不足は深刻化していくものと考えられる。
今回の推計結果を踏まえると、図表4のように解釈できる。
ある場所の水をバケツでくみ、別の場所にある容器に水を溜めるシーンを思い浮かべてほしい。これまでは、一人一人が自分で水をみく、単独で水槽まで運ぶことができていた。いわゆる長時間労働を前提とした熱血サラリーマンが中心の《マラソン型》の労働市場である。
しかし、今後はそのような人材は次第に少なくなっていき、短い距離を走るような「ショートワーカー」の存在が多くなっていく見込みだ。今後、国や企業は《バケツリレー型》で水を運ぶことを前提とした上で、ショートワーカーの活用をより一層念頭に置くべきであるといえよう。
本コラムでは、労働力不足の現状をおさえた上で、2035年の労働市場の未来を考えてきた。人口減少や高齢化が進む中、日本の労働市場では2035年に1日当たり1775万時間の労働力が不足する(2023年の労働力不足より1.85倍)。
就業者の数は増えていくものの就業者全体の働く時間が短くなることで、労働力不足は深刻さを増していく見通しだ。この傾向を整理したものが図表5である。
今回の推計結果は、あくまでも「現況がこのまま続いた場合」の未来の姿である。私たちの意識や行動が変わることで、こうした悲観的な未来は変えられる。次回のコラム「2035年1日当たり1775万時間の労働力不足―深刻化する労働力不足の解決策」では、労働力不足の問題を解消するための打ち手について述べる。
パーソル総合研究所 シンクタンク本部 研究員。大手市場調査会社にて、3年にわたり金融業界の調査・分析業務に従事。CS調査・NPS調査をはじめ、ES調査やニーズ探索調査などを担当。
担当するES調査や自身の一社員としての経験を通じて、人と組織の在り方について強い関心を抱き、今後は人や組織の領域における課題解決に尽力したいと考え、2022年8月より現職。
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