「人手不足に対応するため、経営層はいますぐDXの推進を」という言説を耳にしたとき、「そうだそうだ。ウチは遅れてるんだから、改革してくれないと!」と肯定的に感じる人は多いだろう。
しかし「あなたのこれまでのやり方では非効率なので、新しいシステムに移行してください」と言われたらどうだろうか。「面倒くさい」「今までのやり方でやっていきたい」と否定的な感情を抱いてしまうかもしれない。
変革期に生じがちな、こうした否定的な感情や「やりづらさ」を軽減するための、チェンジマネジメントという取り組みがある。チェンジマネジメントは、デジタル化の波に立ち向かう企業に何をもたらすのか。推進する際のコツはあるのか?
荏原製作所でチェンジマネジメントに取り組んでいる入江哲子(いりえ のりこ)氏に話を聞いた。入江氏は、全世界に117あるグループ企業において約1万9000人超の従業員を抱える同社で、ERP導入などのチェンジマネジメントを担当。これまでには、花王やソニーといった企業で20年にわたってチェンジマネジメントを推進した経験を持つ。
システム導入などのプロジェクトでは、技術的側面ばかりが取り沙汰されがちだが、実は人的な側面が問題になることも多い。こうした領域を支援し、抵抗感をなくすのがチェンジマネジメントだ。
入江氏はチェンジマネジメントを「変革を円滑に進め、人々をハッピーにするためのツール」と捉える。「無理強いすることなく、理解と共感を得ながら変革を進めることで好循環を生み出すのに寄与する」ことから、変革期にチェンジマネジメントでアプローチしていくことは重要なのだ。
入江氏はチェンジマネジメントを進める際、「ADKARモデル」(アドカーモデル)にのっとっている。
ADKARモデルは、「AWARENESS」(認知)「DESIRE」(欲求)「KNOWLEDGE」(知識)「ABILITY」(能力)「REINFORCEMENT」(定着)という5つのフェーズからなる。
ADKARモデルでは、変革を他人任せとするのではなく、自分ごとと捉え、全員が関与することを重要とする。そのことにより“抵抗勢力”の影響なく組織が変化し、変革を成功させることができる。全員が自分ごとと捉えるので、満足度が高まる上、変革を遂げた組織のやり方が定着しやすいのだ。
ADKARモデルのフレームワークにのっとって進める上で、入江氏はそれぞれどのようなことを行っているのか。
他社の事例や現状分析も用いつつ、変革の必要性やメリットを経営層だけでなく現場社員へも丁寧に説明し、理解を得るようにする。特に、現場のスタッフが「自分にもできる」と感じられるような粒度にまで落とし込むことが重要だという。そのために、中間マネジャーにも発信してもらえるような説明を心掛ける。
社員が変革を自分ごととして捉えられるよう、現場の声に耳を傾け、不安や疑問に寄り添っている。これにより「自分はこうなりたい」「会社をこうしていきたい」という変革への欲求が高まる。
変革に必要な知識やスキルを習得できるよう研修やワークショップなどを行う。ここで入江氏が重視しているのは「なぜ」の部分を理解してもらうことだという。
「なぜこのプロジェクトをするのか、なぜ変わる必要があるのか、なぜ今なのか、という“なぜ”の部分を理解せず、いきなり知識を入れても定着することはない。変革を進めたいと思ってはじめて新しい知識がすんなり入っていくのです」(入江氏)
変革を実行するための能力を各人が習得し、発揮できる状態に達するようにコミュニケーションを取る。
ABILITYフェーズに到達すると、自然な流れで変革後の状態は維持できる。さらなる取り組みとして、Webサイトの立ち上げなどにより成功体験を共有し、モチベーションを高めることで定着化を促進している。また、サーベイを定期的に取ることで、強化すべき点を特定し、対処する。
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