この記事は、會田武史氏の著書『音声×AIがもたらすビジネス革命 VOICE ANALYSIS』(幻冬舎、2024年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて出版当時のものです。
AI活用の三大分野(画像、テキスト、音声)を見ると、画像とテキストのAI活用は事例が増えている一方、音声の事例はまだ少ないのが現状です。
言い換えると、音声データの活用はまだスタートしたばかりだということです。これから迎えるAI社会では、音声データの効果的な活用方法を見つけ出すことによって企業は市場での競争力を伸ばせると考えています。
株式会社RevComm代表取締役
三菱商事株式会社にて自動車のトレーディング、クロスボーダーの投資案件・新会社設立、M&A案件等に従事。
2017年7月株式会社RevComm設立。電話解析AI「MiiTel Phone」、Web会議解析AI「MiiTel Meetings」、対面会話解析AI「MiiTel RecPod」を提供している。
音声におけるAI活用を進めるためには、まずはデータを溜める仕組みが必要です。その点でも、音声は画像やテキストと比べて遅れています。例えば、画像データは工場などあらゆるところにあるカメラで取得でき、テキストデータもメールやメッセージのやり取りを含めて大量に存在します。
しかし、音声は録音する機器と機会が少なく、データそのものが少ないといえます。会議の録音データやコールセンターでの顧客との会話を残している企業もありますが、そのほとんどは、単純な録音ファイル(生音源)として置いてあるだけで、AIが分析できる状態にはなっていません。この状況を変えることが音声データを活用するための第一歩です。
音声AIは多様で良質な音声データを大量に入力することで、ようやく価値を発揮し、企業と人にメリットをもたらします。
これはレコメンドエンジンを考えると分かりやすいでしょう。ネットショップで買い物をしたときに表示される追加の「おすすめ商品」の情報や、動画アプリで表示される「あなたにおすすめ」の動画は、利用者と同じ商品を買ったり、同じカテゴリーの動画を見たりした人を関連づけ、そのグループの中で人気がある商品などをレコメンド(推奨)する仕組みです。
この機能の背景には消費者の行動に関する膨大な量のデータがあります。質と量の両面でデータリッチになるほど推奨する商品も的確になります。
音声データの活用も同じで、データリッチになればなるほど出力の質が向上します。集めた音声データを生かすとどのようなメリットがあり、どのような変革を起こせるのかは、営業やコールセンターでの活用事例を見るとよく分かります。
コールセンターはどちらかというと、これまではコストセンターとして見なされがちな存在でした。しかし、実は顧客の声が集まる貴重な場です。コールセンターは本来、コストセンターではなくむしろ「セールスセンター」や「マーケティングセンター」としての機能を持つべき重要な顧客接点だといえます。
それにもかかわらず、単純に顧客との通話を録音しているだけで、全くデータとして資産化されていない実情は、非常にもったいないです。
また営業では、従来、商談などの会話は録音されていなかったため、ブラックボックス化していました。AI社会では、このような音声が企業の重要なアセットになります。今まで資産といえば、石油や金など換金性がある有形資産が主でした。しかし、AI社会になるとこの概念が変わります。画像、テキスト、音声などのデータという無形資産を豊富に持つ企業が、資産を多く持つ企業と評価されます。また、AIの民主化によってデータの活用機会が増えていくほど、企業が独自に持つデータの価値は高くなっていきます。
ある大手金融機関ではプロダクトアウト的に金融商品を提供していましたが、コールセンターでの会話を全てビッグデータとして収集し、それを「クオンツ」と呼ばれる金融商品を組成する人やマーケター、営業などに共有することによって、マーケットインの発想で顧客一人一人に合った金融商品の組成やマーケティング、営業活動に切り替え始めています。
また、音声データが溜まると「何月何日何時何分頃に、どの地域にどのような提案を行うと顧客価値を最大化できるのか」がデータとして明確になるため、自動顧客対応AI、自動営業AI、自動マーケティングAI、自動金融商品生成AIなどの構築も可能となります。
極めて優秀なアルゴリズム自体はすでに開発されているので、あとはこうした貴重な生の現場のデータを収集して、アルゴリズムに組み込み、活用できるかどうかが勝負となります。コールセンターのみならず、社内社外の全ての音声データをビッグデータとして資産化すれば、経営判断AIの構築にもつながります。
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