では、「自分らしさに沿って生きる」ためには、どうすればよいのでしょうか。
私が考える「自分らしさに沿って生きる」とは、自分が“自分と呼ぶにふさわしい”と思う価値観に沿い、志を持って行動し続けることです。
例えば、あなたが他人から「◯◯のような人ですね」といわれたとしても、自分が「確かに自分は〇〇だ」と認識しないなら、それは自分らしさとはいえません。自らが主体的に認識しているということが、「自分らしさ」の大きなポイントです。自分らしさは他者から与えられるものではなく、自分自身で見いだしていく必要があるものだと言えます。
自分らしさを発見するためには、いくつか方法があります。ここでは私が普段から取り入れているやり方も含めて、2つご紹介します。
具体的なプロセスは「ライフラインチャートを書く」「感情のラベル化をする」「解釈をする」「日々、振り返る」の4つから成ります。
(1)ライフラインチャートを書く
幼少期から現在に至るまでの間に自分に影響を与えた、印象深い出来事を書いていきます。曲線の上下は、当時の幸福度や感情の起伏を示しています。
(2)感情のラベル化をする
幸福度が高い時、低い時の理由、つまり「感情」を言葉にしていくことで、当時の自分自身がどのように感じていたのかを理解していきます。
(3)解釈をする
「なぜ当時の私はそのような感情を持ったのだろうか?」「その感情は、今の私にどのような影響を与えているだろうか?」といった問いを自分自身に投げかけることで、自分の価値観や性格が浮き彫りになっていきます。
感情が上下に振れたタイミングは、自分らしさを発見するヒントになります。同じような出来事があったとして、それに対してものすごく怒る人もいれば、ものすごくうれしいと感じる人もいる。「喜怒哀楽」が、自分の価値観に根ざしているため人によって感じ方は異なります。
(4)日々、振り返る
上記で言語化した内容に対しての振り返りを行います。その理由は、言語化しただけではすぐに忘れてしまうからです。例えば「挑戦」というワードが見えてきたとしても、何もしなければ1週間もたつと忘れてしまうものです。
そこで、私は、毎朝5〜10分、その言葉を振り返る時間を設けています。
自分らしさと定義した言葉に対して、自分の気持ちはどうだったか? 行動できていたことはあったか? やらなければいけないと思っていることなのか?――そんな問いを自分に投げかけています。地味な作業ではありますが、毎日毎日繰り返すことで、それがいつしか自分を構成する要素の一つになっていく感覚があります。
次に取り組みたいのは、言語化できた自分らしさ、つまり自分の価値観に沿って「自分はこういう理由で、こう考える」という意見を持つことです。
そうはいっても、所属する組織の風土や上司との関係性によっては、自分の意見が言えないこともあるかと思います。けれど、自分の意見を言わない状態が続くと、「自分はこう思う」「こうしたい」といった意思が、どんどん曖昧(あいまい)になってしまうものです。
もし直属の上司に言いにくいのであれば、信頼できる先輩や外部のメンターに話をしてみてもいいでしょう。多くの角度から話を重ねる中で、再確認できることも多くあるはずです。考え方をブラッシュアップしていく一つのきっかけになると思います。
「自分らしさに沿って生きる力」は、実は、これまでに解説した「問いの設定力」(第2回)や「決める力」(第3回)、「リーダーシップ」(第4回)にも深くつながっています。自分らしさに沿って生きる力を磨くことで、「問いの設定力」も高めることができます。なぜなら、よい問いとは他人から借りてきた型通りのものではなく、自分の意思や哲学が反映されているものだからです。
自身の価値観がはっきりとしていて、自分を信じられれば、決める力をも高めます。「よい決断」とは他人から与えられるものではなく、リスクをとってでも最後は自分の信念に沿って決めるものだからです。「リーダーシップ」についても、自分らしさは不可欠であると言えるでしょう。他人の意見を整理してそれらしくコメントを述べる評論家よりも、自分の立場を明確にして発信する人に、周囲は影響されるものだからです。
自分らしさに沿って生きるとは、「自分が“自分と呼ぶにふさわしい”と思う価値観に沿い、志を持って行動し続けること」だと紹介しました。
私たちの生活は一人では成り立たず、周囲の関係する人や所属組織、家族などからの期待に応えることも必要でしょう。しかし、だからといって多くの判断を“他人らしさ”に従うのでは、これからの時代では苦労することになるかもしれません。
先日、ある読者から「多くの人が『自分らしさに沿って生きる力』を高めたら、どのような社会になりますか?」という質問をもらいました。
私は、改めて自分の考えを整理し、「人々がお互いの価値観を尊重し、それにより価値観のダイバーシティーが広がり、結果として1+1=2以上の価値が生み出される社会になるのではないか」と答えました。
自分自身の「自分らしさ」を理解するということは、他人の「自分らしさ」を認めることにつながります。自分の価値観を大事にしているからこそ、他人の価値観も大事に扱うことができる。これは、互いの価値観をリスペクトできている状態であり、「ダイバーシティー&インクルージョン(多様性を認め、生かすこと)」につながります。
そして、共通のゴールや課題に対して、それぞれの価値観を生かせる状態になることでイノベーションがより創出されやすくなる。結果として、1+1=2よりも大きな価値が生み出されるのではないでしょうか。
逆に言えば、会社や組織が決めた集団の“らしさ”など一つの価値観にみんなが従っていくと、「本来こうあるべきではないか?」といった根本的な問いが立てづらくなり、創造性に富んだ新たなサービスや製品が生み出されにくくなります。
何より、自分らしさが持てないとき、人は何か分かりやすい尺度にすがりたくなるもの。結果として、給与や地位、名誉といったものに固執して生きようとしてしまうのではないでしょうか。そんな自分らしさがない社会を想像すると、「そこで生きるのはきっと、楽しくない」と感じるのです。
だからこそ、それぞれが自分を信じて生き抜く力を高めてほしい。自分らしさに自信を持ってほしいと思います。今回紹介した考え方や方法論が、一人一人の「自分らしさ」の再発見につながることを願っています。
埼玉大学教育学部卒業。株式会社サイバーエージェントでインターネットマーケティングのコンサルタント経験を経て、デジタル・PR会社のビルコム株式会社の創業に参画。取締役COOとして新規事業開発、海外支社マネジメントなど経営全般に携わる。グロービス参画後は、社内のEdtech推進部門にて「GLOBIS 学び放題」の事業リーダーを務める。グロービス経営大学院や企業研修においてプログラムの講師なども担当。著書に『AIが答えを出せない問いの設定力』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
AIには答えられない「問い」がある――社会人が磨くべき「3つの能力」とは?
上司と部下の会話、なぜかみ合わない? “残念パターン”から探るコミュニケーションの深め方
「決めるのが怖い」と悩む管理職へ 今すぐ「決断力」を高めるために押さえるべき3つの視点
「管理職じゃないし……」視座が低い部下 リーダーシップを育む3つのポイント
平成→令和で「管理職」に求められるスキルはどう変化した? 役割はさらに複雑化……
女性が管理職を望まない理由 「責任が重い仕事はイヤ」を抑えた1位は?
「管理職になりたくない」女性が多いのはなぜ? リアルな苦しみを専門家が解説
「管理職になりたくない」 優秀な社員が昇進を拒むワケ
「管理職辞退」は悪いこと? 断る際に重要な2つのポイントCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング