自治体DX最前線

自治体職員は必見 悪質な仕様書をChatGPTで見破る方法【プロンプト例あり】(1/2 ページ)

» 2025年01月27日 07時00分 公開
[川口弘行ITmedia]

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著者プロフィール:川口弘行(かわぐち・ひろゆき)

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川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。

2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。

2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。

現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com


 こんにちは。全国の自治体のデジタル化を支援している川口弘行です。

 実は年始早々にインフルエンザに罹ってしまい、大変苦しい思いをしました。年末年始は動画生成で引きこもっていたというものの、それなりに人の出入りもあったので、ちょっとした油断で感染してしまったのでしょう。

 私が関与する自治体でも職員が新型コロナウイルスに感染したという話も聞きますし、これからも感染症対策とそれに伴う業務継続について考えていく必要があるのかもしれません。

 特に自治体は健康福祉政策にも関わる立場でもあり、パンデミックになった場合でも行政事務を滞らせることはできません。感染を予防する取り組みは必要ですが、再び感染拡大が現実のものとなった際、非対面でのコミュニケーション、意思決定の方法が確立できていないと、身動きが取れなくなってしまいます。

 しかしながら、国内外の民間企業ではリモートワークを廃止または縮小する動きが広がっています。IT大手のAmazon.comでは、リモートワークを廃止して、週5日のオフィス勤務を復活させることに加え、米本社も含め「以前のようなデスク配置」を復活させるとしています。

 日本では、公益財団法人日本生産性本部の「第13回 働く人の意識に関する調査」によると、ハイブリッドワークとして一部を存続させるところもあるようですが、リモートワークそのものの実施率は2020年5月の31.5%から23年7月には15.5%にまで減少しています。

 リモートワークの廃止、縮小を進める要因の一つとして「コミュニケーション不足の懸念」があります。厚生労働省の報告によれば、リモートワークでは社内での気軽な相談・報告が難しく、コミュニケーションが不足しやすいデメリットがあると指摘されています。

 コロナ禍を経て、リモートワークを支える道具(Web会議、チャット、仮想デスクトップなど)は随分と普及しました。しかし、依然としてコミュニケーション不足が課題として挙げられるのならば、それは道具の問題ではなく、コミュニケーション、意思決定の方法の問題なのではないかと思います。このあたりは、また一緒に考えていきましょう。

自治体の調達事務の実情

 さて、前置きが長くなりましたが、今回は「自治体における生成AIの活用事例」として、調達事務の改善について考えてみましょう。

 私は自治体CIO補佐官という立場とは別に、行政機関向けのソフトウェア、サービスを開発し提供するメーカーの顔も持っています。

 毎年のことですが、今の時期は全国の自治体から来年度当初予算用の参考見積提出の依頼が押し寄せて来ます。さらにいくつかの自治体からは次のような依頼が来ることもあります。

参考となる仕様書も一緒に提供してもらえませんか?

 本来、公共調達とは発注者である自治体が製品やサービスの仕様を示し、その仕様を満たした上で最も安価な見積もりや提案をしてきた事業者と契約を締結するルールとなっています。つまり、発注者は「自分たちが何を欲しているのか」を知っているからこそ、仕様を示すことができるのです。

 したがって「自分たちが欲しいもの」を決める行為を放棄し、それを取引の相手方に委ねてしまっている状態というのは「異常」とも言えます。

 確かに、専門性の高い製品やサービスを調達する際には、その仕様を適切に言語化することが難しく、不安を感じることも理解できます。そのため、仕様が明確に記載された文書を参考情報として求める気持ちも理解できます。

 これがもう少しエスカレートすると、

 あなたのところの製品を指定して調達したいのだが、公共調達として中立性・公平性を損ねるので、あなたの製品しか選べないような仕様書を提供してもらいたい

 という依頼もあります。

 発注者である自治体職員から見れば、調達事務は数多くある事務の一つでしかなく、これだけに時間や労力を割いている余裕はありません。なるべく面倒な事務は省略して、サクッと欲しいものを手に入れられるのならば、互いに空気を読んで「他に選択の余地がない」という状況を作り出すのもテクニックの一つだと割り切っている職員がいるのは事実です。

 ただ、ここまで来るとかなりグレーゾーンであり、場合によっては違法(官製談合防止法違反)となる可能性があります。世の中には同様の機能を持つ製品やサービスが多数存在し、それらを提供する他の事業者を排除することになるためです。また、自治体の調達の原資は公金(私たちの税金)であり、一部の自治体職員の都合で税金が適正に使われない場合、行政事務全体の信用失墜にもつながります。

 一方、このような状況は製品やサービスを提供する事業者側にとってみれば、むしろ好機とも言えます。自社の製品を名指しで指定してもらえるならば、価格交渉も簡単に済みますし、確実に売り上げを計上できるという安心感は事業者側にとって非常に大きなメリットです。そのため、公共営業とは「自治体の担当者に顔と名前を売って、自社に有利な仕様書を自治体に書かせるべく暗示をかけるビジネス」だと捉えている事業者もいます。

 上述のとおり、私は自治体職員の立場でもありながら、事業者側の立場でもあるので、両方の現実をよく理解しています。そのうえで、事業者としてあまり下品なビジネスはしないように心がけています。

 今回は、過去に事業者から実際に提供された仕様書の悪質なポイントについて解説し、こうした仕様書の悪質性をChatGPTを用いて見破るためのプロンプト例を紹介します。

悪質な仕様書をChatGPTで見破るためのプロンプト例を紹介。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

事業者から提供される悪質な仕様の例

 発注者である自治体職員が「他に選択の余地がないような仕様書」を求める行為は、職員自身がその意味(他事業者の排除)を理解していることを示しており、違法性が高いです。一方で、自治体職員の無知につけ込み、気付かれないように他社の製品を排除するような仕様書を書かせようとする事業者も存在します。こちらは直ちに違法性を問うことはできないのですが、それゆえに、全国の自治体でこのようなやり取りが常態化している可能性があります。

 私が以前CIO補佐官としてあるシステムの調達案件に関わったときに、担当の職員が持っていた資料が次のようなものです。

事業者から提示されたシステムの機能要件(抜粋)

 これは、ある事業者から「参考情報」として提供を受けたシステムの機能要件一覧です。

 一見、普通の機能要件に見えるのですが、巧妙に仕掛けられたワナがありました。赤枠で囲った部分がそのワナです。例えば「メインメニュー画面には、『大型のアイコンで』各機能が表示されていること。」というものがありました。

 おそらく無知な自治体職員が機能要件を精査しないで、この表の機能要件をそのまま仕様書に挿入することを狙っているのでしょう。

 ここでの論点は「大型のアイコンで」という部分です。どんな方法であっても、使いやすいシステムであるのならば、アイコンが大型であるか否かは必須条件ではありません。しかし仕様書にこのように明記されると、アイコンが大型なのか否かが論点となってしまいます。アイコンが小さくても使いやすいシステムはこの段階で排除されてしまいます。

 同様に「メインメニュー画面において、新着情報(保護者からの連絡など)がPC端末上でプッシュ通知(着信音有)されること。」とされると、他に効果的な通知方法があっても着信音がないシステムは排除されてしまいます。

 この機能要件の悪質さは「一見して善意のように見せているが、その裏に悪意が盛り込まれている」という点です。自治体職員はこのようなワナを見破らないといけないのです。

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