現在のような複雑な変化が連続する時代になると、将来への不安からか未来予測が人気を博す。実際、世界中で多くの未来予測書が出ていて、近年は特に、テクノロジーの最先端を追うことによる未来予測が人気のようだ。確かに、テクノロジーはわれわれの生活を大きく変えてきたし、これからもそうであろう。未来を知るのにテクノロジーをキャッチアップし続けることはとても重要だ。
しかし、あなたが未来予測の確実性をもっと高めて、この変化の激しい時代を生き残っていきたいのであれば、地政学の知見も欠かせない。第20回中国共産党大会で、国家主席として異例の3期目に入った習近平氏が、「中国式現代化」をうたった。中国はケ小平氏が掲げた「改革開放」以来、世界中の人材や資本を受け付け、世界から技術や経営を学んできた。ここにきて習近平氏の「中国式路線」で、中国の技術開発やサプライチェーンマネジメントは変わってしまい、中国への投資や、中国で中国企業と事業をしていた外国企業は大きな影響を受けそうだ。ゼロコロナ政策の転換も2022年10月現在では起こらず、いまだに工場のロックダウンが起こり、世界中の企業に大きな影響を与えている。
海外で起きることがあなたのビジネスにリアルにダメージを与える。海外展開している企業に勤めている方であれば、中国の情勢一つで業績が激変する場合もあるし、ビジネスをしている現地国でデモが起きればその国から撤退を余儀なくされるかもしれない。日本で暮らしている人でも、日本はその資源のほとんどを輸入に頼っているので、今の世界的な食糧や燃料の高騰によって間接的にコストが増しているという人も多いのではないか。だからこそ、世界情勢を深く知り、その行く末を読み、危機を事前に回避することが重要だ。
ここで鍵を握るのが地政学の知見だ。前節でもお伝えした通り、世界情勢を大きく動かしているのは国のトップの言動であり、そんな「国のトップの思考法」をあなたの頭の中にインストールするのが地政学である。「あなたがプーチンだったら(ロシアという環境や条件に置かれたら)NATOの東方拡大をどう考えるか?」。地政学の本質である「相手(国)の立場に立って考える」という姿勢を持ち、相手(プーチン)の深層心理を分かっていれば、ロシアがウクライナに侵攻するということは選択肢の一つとして現実的に考えられたであろう(ロシアがウクライナに侵攻した理由については、後に詳しく解説する)。
もちろん、主権国家の領土を武力で侵略するというプーチン氏の行動を正当化するわけでは断じてないが。そして、さらに重要な事実は、あなたが「自分の未来を変える」と考えているテクノロジーの行く末ですらも、「世界情勢」によって大きく左右されるということである。最近の例では、Facebookの「Meta」への社名変更が記憶に新しい。Facebookが「Meta」に社名を変えたのはいくつか要因があるが、ネット広告への規制が大きい。近年の欧米でのプライバシーリテラシーの高まりから、米当局がIT各社に対して、プライバシー保護の監視を強めていた。それにより、個人データを活用した広告を展開するのが厳しくなり、広告収入の割合が大きかったFacebookは打撃を受けた。そのことが、Facebookをメタバース事業参入へと駆り立てたとも言える。
つまり、今後どんなテクノロジーが衰退し、どんなテクノロジーがいかなる形で新たに出てくるかということでも、国家の安全保障に関する意思決定により大きく影響を受けるということである。であるからして、テクノロジーも重要であるが、本当に未来予測の確実性を高めたいのであれば、より根本にある「世界情勢」に目を向けることが必要だ。そして、そのために「地政学」が欠かせない。
国の方針一つで、あなたのビジネスも、そしてテクノロジーの行く末ですらも180度変わってしまう。それくらい、地政学を生かした世界情勢分析は「未来予測の本質」なのであり、だからこそ、レイ・ダリオ氏は未来予測に地政学が最も重要だと考えているのである。
投資家で地政学を重視している例は枚挙にいとまがない。2022年9月にはコロナパンデミック発生後3年ぶりにリアルでシンガポールにてミルケンアジアサミットが開催され、私が、招待者オンリーでオフレコの「日本セッション」をチェアした。このセッションで真っ先に出た質問も、地政学がらみであった。日本への投資は地政学リスク抜きに検討できないという雰囲気であった。それは世界最大級のアクティブ債券運用会社のナンバー2からのものであった。これだけの大物が日本セッションに来て、「ここは対日投資について議論する場だが、地政学の質問をしたい。台湾有事がささやかれるが、米国と中国の間で日本はいかなる役割を果たすのか」との質問があったくらい注目されているのだ。
地政学は「最強の未来予測」である。これに間違いはないが、そんな地政学にも難しいことがある。中長期的に「何が起こるか」は予想できるのだが、その未来が「いつ起こるか」までを確実に当てることはできない。実際、「NATOが東方拡大したら、ロシアがウクライナを攻める」という「何が起こるか」については、何年も前から専門家たちが指摘していた。
それは地政学がなせる技とも言える。しかし、それが「2022年2月くらいに起こる」とまでは読めなかった。
タイミングまでは読めないが、リスクをヘッジするオプションを作り出すのに地政学は役立つ。大事なのは「複数のシナリオを持っておく」ことだ。これをシナリオプランニングという。石油メジャーのシェル社が考え出した未来予測の技法だ。プランAに加えて最低でもプランBを持っておく。どちらに転んだとしても、その危機を回避できる可能性は高まる。もちろん、そうしても、シナリオを超える事態が起こることも十分あるが。
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