オリエンタルランド、株価「4割下落」──夢の国に何が?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」

» 2025年02月14日 08時50分 公開
[古田拓也ITmedia]

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筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


 東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの株価が、この1年で約4割下落した。

 同社の株式は、ディズニーリゾートの優待チケットがもらえることが特徴で、2024年初頭は特に新NISAの成長投資枠において人気を誇っていた。しかし、2024年1月後半からは坂を転げ落ちるように低迷し、直近1年間で株価は37.8%下落。当時の人気は「新NISA天井」だったのかと疑うべき状況に陥っている。

 国内有数のレジャー企業であるオリエンタルランド株がこれほどまでに下落した背景には何があるのか。本記事では、最新の決算データを基に、業績動向や市場の評価を確認していきたい。

“不調説”は本当か?

 オリエンタルランドの中核事業は、言わずもがな東京ディズニーランドおよび東京ディズニーシーの運営だ。ディズニーブランドの強い訴求力を武器に、ホテル事業やモノレール運営、不動産事業なども展開している。テーマパークを中心に、その世界観を踏襲した“経済圏”を構築している企業である。

photo 公式Webサイトより引用

 同社はコロナ禍で一時的に業績が悪化したが、規制緩和後の2023年には業績が大きく回復。株価もそれに合わせて右肩上がりとなり、一時は史上最高値を更新した。しかし、2024年に入り、その流れは一変。同社の“不調説”は本当か。

 オリエンタルランドの2025年3月期第3四半期決算の累計実績によると、売上高は5051億円(前年同期比8.3%増)と堅調だったものの、営業利益は1349億円(同4.7%減)と減益。純利益も957億円(同4.1%減)とやや伸び悩んだ。

photo オリエンタルランドの「2025年3月期第3四半期決算説明会」資料より引用

 事業別に見ると、テーマパーク事業の売り上げは4109億円(同6.0%増)と引き続き堅調であり、客単価も伸びている。さらに、ホテル事業の売り上げも同じ22.0%増の816億円と、インバウンド需要を取り込んで2桁増収で着地。売上高から不調の兆しは一切見えない。

 減益となった主な要因は「販売管理費」、とりわけ「人件費の増加」だろう。同社の販管費は足元の物価高騰に伴う光熱費や賃上げの動きもあって、前年同期の593億円から734億円と23.7%も増加している。つまりコスト上昇と価格転嫁の間にラグが生じていることが主要因であると考えられる。

 ここまでを踏まえると、今後もチケットや宿泊料の値上げに踏み切る可能性は残されているものの、業績自体は構造的なビジネスモデルの不調であるとはいえない。

ではどこに懸念が?

 一方、懸念点としては物価高騰に伴う「娯楽消費の先行き不安」が大きいのではないだろうか。今年は「家計の消費支出に占める食費の割合」を示す「エンゲル係数」が29%と、過去43年間で最高レベルに達した。

 オリエンタルランドのような娯楽を提供する業界は、かつては景気動向の影響を受けにくい「ディフェンシブ株」に名を連ねてきた。しかし、近年では個人投資家人気の加熱も後押ししてPERが100倍を超える時期もあり、株価が大幅に下落した現時点でも48倍ある。これは「ディフェンシブ株」セクターでは異常値だ。

 またリゾート事業や、リゾート事業との関連性が高いホテル事業については、「インバウンド比率の高まり」や「顧客層が値上げに耐えられる層に集中し始めている」ことから経済環境の影響を受けやすくなっている。そのため、やはりオリエンタルランドは「景気敏感銘柄」として整理すべきだろう。

 「食費が高騰して、娯楽に回すお金がない」という家計が増えれば、オリエンタルランドの業績が短期で大きく成長するビジョンは見えなくなる。

 日銀の「利上げ」も追い打ちをかけてきそうだ。2024年6月に開業した東京ディズニーシーの新エリア「ファンタジースプリングス」で同社は、過去最大規模の投資を行ったという。そんなオリエンタルランドの有利子負債は現在、約3000億円まで積み上がっている。

 物価高を抑制するために日銀が今後も利上げ施策に踏み切った場合、利息負担の増加が財務面での重しとなり、業績を圧迫してしまうというリスクも懸念材料の一つと市場関係者に認識されている可能性がある。

波乱はマクロ要因、乗り越えられるか

 ここまで考えると、オリエンタルランドの足元の業績自体はそこまで不調ではない。しかし、今後の日本経済におけるマクロ要因がオリエンタルランドのビジネスモデルに不調をもたらすのではないかいう先行き不安の側面が同社の株価を押し下げていると考えられる。

 経営陣はその局面にどういった施策で対処してくるのか。今後の決算や来園者の動向を慎重に見極めることが重要になりそうだ。

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