1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
パナソニックホールディングス(HD)が2025年度中に事業会社「パナソニック株式会社」を解散し、複数の会社に分割する方針を発表した。一部ではこれを経営不振による解散ではないかと見る向きもあるが、実際には事業成長と経営効率化を目的とした再編であると筆者は考える。
現在のパナソニックグループは持株会社制を採用しており、パナソニックHDが各事業会社を束ねる形になっている。その中で「パナソニック株式会社」は、持株会社移行後も存続していたが、今回の再編によってその役割を終えたという方がより正確だろう。
「パナソニック株式会社」が解散しても「パナソニックHD」の存続は変わらない。むしろより機動的な経営体制へと移行する可能性がある。実際のところ、この発表は株式市場でも好感されており、株価は報道以来11%プラスとなり、時価総額は4000億円も増加した。何が起きているのか。
2025年3月期第3四半期決算によれば、売上高は前年同期比1.6%増の6兆4039億円、営業利益は8.8%増の3483億円と増収増益だった。純利益は2884億円と前年同期比で28%減少したが、これは前年にパナソニック液晶ディスプレイの清算に伴う法人所得税の影響があったためであり、事業自体が低迷しているわけではない。
2025年3月期の通期業績予想は、売上高を従来予想の8兆6000億円から8兆3000億円へと下方修正したが、営業利益3800億円や当期純利益3100億円の見通しは据え置かれている。中核子会社の解散による業績影響は軽微となる見込みだ。
パナソニックにとって、2024年度は2022年に策定した中期経営計画の最終年度だ。同社はROE(自己資本利益率)向上を掲げ、中期経営戦略を推進してきたが、その締めくくりとして収益性の低い事業の整理やグループ構造の改革に乗り出したのではないかと考えられる。
今後、同社が重点的に投資を進めるのは、車載電池、空調、サプライチェーンマネジメント(SCM)ソフトウェアの三分野だ。SUBARUやマツダとの協業による国内電池工場の拡張はその象徴であろう。
一方、2024年12月には、車載機器の製造・開発を担うパナソニックオートモーティブシステムズ(PAS)の株式を売却し、非連結化を完了。さらに、今後はテレビ事業などの不採算部門についても撤退や売却を視野に入れており、成長投資と低採算事業の整理という両面で効率化が加速しているのだ。
事業再編の根底には「選択と集中」の経営戦略がある。企業が持つリソースは有限であり、全ての事業を均等に伸ばすことは現実的ではない。
パナソニックに限らず、過去にも大企業が組織のスリム化を図るために中核子会社を解散し、事業再編を進めた例は少なくない。
ソニーは2014年にPC事業「VAIO」を売却し、2019年にはエレクトロニクス部門を統合、2021年には「ソニーグループ株式会社」として持株会社化した。この結果、ゲームや音楽といったエンタメ事業の成長が加速し、企業全体の収益性が向上した。
日立製作所も2009年の7000億円の赤字を受け、非中核事業の売却や統合を進めた。2021年にはIT子会社を吸収合併し、デジタルとインフラに集中する戦略をとり、利益体質の強化に成功している。
今回のパナソニックHDにおける中核子会社の解散は、単なるリストラではなく、企業価値を最大化するための戦略的手段である。市場環境の変化が激しい現代において、既存の組織形態に固執するのではなく、持続的成長のために事業ポートフォリオを柔軟に最適化していこうという経営陣の姿勢の表れだと捉えられる。
一般に「解散」という言葉は、経営破綻や倒産を連想させるが、今回のケースはそれとは異なる。パナソニックHDは持株会社制を導入しており、親会社であるHDのもとでグループ構造を再編し、事業を最適な形に整理するのが今回の「解散」の本質だ。
今後は「パナソニック」というブランドの行く末も注目される。特に、家電分野では「パナソニック」ブランドが消滅するのではないかという懸念もあるが、公式発表では「社名をどうするかは未定」としている。
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