名古屋発のWi-Fiと電源完備の無人カフェチェーン「セルフカフェ」が話題だ。スタッフは常駐しておらず、利用者は400円前後のドリンクを最低1杯購入すれば何時間でも滞在できる。
2022年1月の第1号店から、約3年で35店舗(2月9日時点)まで店舗数を増やしている。IT系のスタートアップで有名になった企業は数多くあれど、カフェのスタートアップ企業でここまで拡大できているのは珍しいのではないか。
前編では、無人カフェがどのように利用者を4万人規模にまで増やしていったのかを紹介した。後編では、無人カフェの珍しいビジネスモデルや経営戦略を、無人カフェを運営するセルフカフェの代表取締役 鈴木大基氏に取材した。
セルフカフェにおける最大の疑問は「1杯400円前後のドリンクを購入したら何時間でも滞在できるのに、儲(もう)かるのか?」という点だ。
セルフカフェの収益モデルを測る上では、2年前に出したパートナー(フランチャイズ)店舗を1次募集した際のプレスリリースが参考になる。店舗の内装、外装の工事やドリンクマシーン、セキュリティシステムの導入などの開業や運営のサポートをうたっている。そこに「1日20杯以上販売できる立地でしたらしっかりと収益が残る制度」とある。
同時に応募条件として「無人カフェを開業できる建物を所有している、または賃貸している建物に空きスペースがあり、その面積が20坪以上」ともある。つまり所有物件や追加で賃料が発生しないスペースを持っていれば儲けられるチャンスがあるということだ。セルフカフェだけのために新たな賃料が発生するのならば難しい。
鈴木氏は「例えば、本屋や家電量販店で売り場を少し縮小して、そこにセルフカフェをつくるとしましょう。賃料は全く変わらないし、電気代も大きな変動はないですよね。小売店によっては売り場面積を余すことなく使うことを目的にしてしまっているところもあります。つまり、来店客のニーズに合っていない商品を、売り場面積を埋めるためだけに陳列しているのです。その持て余している隙間をセルフカフェにすれば売り上げが生まれます。マシン機器、セキュリティシステムなどのランニングコストは、1日10〜15杯でも赤字にはなりません」と説明する。
現状、セルフカフェに生まれ変わったスペースとして圧倒的に多いのが「事務所跡」だという。事務所は会社の規模拡大に伴い移転が発生するため、流動性が高い。飲食店と異なり、火を使うこともないため、内装もきれいなのだ。
そして、セルフカフェからは営業は一切かけてないにも関わらず、FC店舗の反響があることで次の話が舞い込んでくる好循環を作れているという。
「皆さん(現在の)人手不足で新しいビジネスを探していて、その辺がマッチしているかもしれません」
無人カフェならの強みだ。筆者は名古屋と大阪で計5店舗のセルフカフェに足を運んでいるが、外装や内装のデザイン以外は広さもレイアウトもかなり異なる。一部の店舗は、前の業態の名残を感じるものもあっておもしろい。親会社が総合リフォーム会社という強みがあるからこそ、どんな物件でも対応できるのだという。
FC店舗出店の問い合わせもあるが、基本的には直営での運営がメインとなる。直営店舗もFC店舗同様に「隙間を埋める発想」で数を伸ばしている。
FC店舗は追加賃料がかからないスペースの所有が出店の条件だったが、直営店の出店戦略はどう考えているのか。直営店の損益分岐点は家賃に左右されるものの、1日約60杯。鈴木氏は「立地は明確に基準を設けている」と話す。
「愛知であれば、自分たちの拠点がある名古屋市から車で45分以内が出店エリアに該当します。拠点から離れている愛知県の南部は、良い物件があっても出店するつもりはありません。(管理する上で)やはり効率が悪くなってしまいます」
現在は店舗の大半が直営だ。24時間体制で、監視カメラ、警備会社への委託などセキュリティシステムの構築をしているが、何か発生した際の現場対応を鑑みると、車で45分以内、約45キロメートル圏内に収めたいという。
また、街の中心部や駅近だけを出店先としていない。駅徒歩15分と離れた場所であってもチャンスがあると見ている。
「今は認知獲得もあるので人通りが多い場所への出店が多いですが、人通りの少ないエリアにも出しています。学生、社会人も田舎だから店に来ないだろうではなくて、周りにこういった勉強や作業ができるコワーキングスペースがあるかどうかという視点が重要です。郊外ほど図書館ぐらいしかありません。図書館はいろいろ制限があるため、誰もが利用したいわけではないと思います。学生さんは図書館に行ったほうが真面目に勉強できるのは分かっていても、常にそこまで勉強に向き合いたいのではなく、友達と一緒に教えあいながら勉強もしたい。こういった需要もあると考えています」
アクセスの良さだけでなく、郊外の学生の隙間ニーズを埋める発想で、これまでコワーキングスペースなどがターゲットとしていなかった学生も取り込めている。
セルフカフェは、愛知県以外にも大阪府、静岡県、千葉県にも進出している。2月9日時点で、愛知の26店舗に次いで多いのが大阪の7店舗だ。2月下旬には愛知・大阪のいずれでも新店舗のオープンを予定している。
愛知でここまで成功しているなら、もういきなり東京に進出しても良かったのではとも思えるが、そこはやはり名古屋との距離感を重視し、大阪市北区の天満に2024年4月に大阪第1号店を出した。
「大阪と名古屋は近いので、店舗効率を考えると東京よりも優先度が高かったです。わたしたちは自前で店舗を作らないといけないので、闇雲に東京へ行っても仕方がないと考えました」
ただ、商圏が変わると商習慣や費用も異なるため、当初予定していた程の出店数は実現できていない。
「名古屋で勝算があり、やり方が分かってきたので大阪に進出したものの、名古屋と大阪では全然違いますね。客層もそうですが、賃料が名古屋に比べて約1.5倍高いです。不動産契約の文化が異なり、契約時のお金も大阪の方が1.5倍ぐらい高い。名古屋にはない経費があり、すごく条件が厳しい。それに1番悩んでいます」
それでも出店を躊躇(ちゅうちょ)しているわけではなく、大阪第1号店ができてから1年未満で7店舗。スタートアップ企業のカフェとしては十分とも思えるが、それでも、鈴木氏は悔しさを口にした。
「難しい中でもいろいろと交渉してできる店舗を探していき、毎月かなりの数を内見しています。私たちとしては、まだこれだけしか店舗をつくれなかったかという感じです。予定ではこの3月までに(大阪で)20ぐらいは行くかなと思っていました。最近ようやく大阪でのやり方が分かってきました」
大阪にはスタッフ2人を常駐させており、さらなる店舗拡大に取り組んでいく。
一方、巨大商圏の関東圏では、まだ千葉にある1店舗のみ。東京には未進出だが、鈴木氏はすでに見据えている。
「東京には3月ぐらいには行きます。コストの高い東京であっても学生層を変わらず狙いたいですが、社会人をターゲットにしてもいいとは思います。東京に関して、わたしたちはコワーキングスペースよりかカフェと競っていくことになると見ています。大手カフェさんのように、どこも満席で仕事はしづらい、パソコンも開きづらい、隣の人に画面を見られるというような、小規模の席で競い合うつもりはありません」
満席問題に悩まされている都内のカフェチェーンの多くが、時間制限を設けている。また、テレワークの定着に伴い、以前より店舗のWi-Fiがつながりづらかったり、テレワーク目的、勉強目的での利用者には店からも他の利用客からも厳しい視線が注がれたりするようになっている。
こういった現状があるだけに、1杯購入で利用可能なセルフカフェの東京進出は、テレワークの場所を探す社会人や、長時間勉強できるカフェを探す学生たちからの需要を見込めるだろう。
セルフカフェは今までカフェ業態では類を見なかった「無人」と、それによる効果によって事業者や消費者の隙間ニーズに応えている。県によって商慣習や初期投資のハードルはあるものの、圧倒的なコスパ力を武器に市場で頭角を現すかもしれない。
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