金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
金融機関の基幹システムを長年支えてきたプログラミング言語COBOL(コボル)だが、技術者の高齢化や減少により「コボラー不足」が深刻な課題となっている。
こうした中、アマゾン ウェブ サービス(AWS)が生成AI開発ツール「Amazon Q Developer」を活用し、解読が難しくなったCOBOLプログラムの解析支援に乗り出した。専門家が減少し「ブラックボックス化」が進むレガシーシステムの解決策になるか。
1959年に登場したCOBOL(Common Business Oriented Language)は、ビジネス処理に特化したプログラミング言語として世界中の金融機関や公共機関のシステムに広く採用されてきた。特に日本の銀行や保険会社の勘定系システムでは、信頼性の高さから現在も中核技術として使われている。
しかし、COBOLを扱える技術者は年々減少の一途をたどっている。90年代以降はJavaやC#などの比較的新しい言語が主流となり、COBOL技術者の新規育成が進まなくなった。さらに開発当初からシステムに携わってきた技術者の多くが退職年齢を迎え、知識やノウハウの継承が困難になっている。
AWSジャパン金融事業統括本部長の鶴田規久氏によれば、「メインフレームの資産の中でも、30年前40年前に使っていた言語で作った基幹系のシステムがあり、その仕様が全く分からない」という課題を多くの金融機関が抱えている。長年改修を重ねたコードは複雑化し、本来の設計意図や機能が分からなくなっているケースも少なくない。
AWSが提供を開始したAmazon Q Developerは、こうした課題に対する新たな解決策として注目されている。同ツールは生成AIを活用し、古いCOBOLコードを入力すると自動で解析して仕様を出力。さらに、コンポーネント間のつながりも可視化し、最終的にJavaなど現代的な言語へのコード変換も支援する。
従来、レガシーシステムの移行プロジェクトでは、COBOLの専門家が膨大なコードを手作業で解析し、仕様書がない場合は逆にコードから仕様を推測する必要があった。Amazon Q Developerはこのプロセスを大幅に効率化し、専門家不足の問題を緩和する可能性を秘めている。
「間違いなくゲームチェンジャーになる」と鶴田氏が評価するように、すでに複数の金融機関で実証実験が進められている。
日本総合研究所では、大規模メインフレーム上で稼働している膨大なCOBOLプログラム資産をJavaへ移行するプロジェクトの検証を進めている。同社は将来的なCOBOL資産のJava移行とマイクロサービス化への展開を視野に入れており、Amazon Q Developerの活用で移行プロジェクトの効率化を図っている。
また東京海上日動火災保険では、Amazon Bedrock(AWSのAI基盤)を活用したレガシーアプリケーションのリファクタリング(コード再構成)を実施。95%が自動生成されたコードでそのまま動作することを確認した。同社は今後、実際のプロジェクトへの適用を進める計画だ。
金融機関にとって、COBOLで書かれたシステムの維持・発展は単なる技術的課題にとどまらない。基幹系システムには金融機関のビジネスロジックや長年培ってきた業務知識が埋め込まれており、これらの資産を失うことなく次世代に継承することが重要だ。
Amazon Q Developerのようなツールは、単にレガシーコードを現代的な言語に置き換えるだけでなく、暗黙知となっていた設計思想や業務ロジックを可視化する役割も果たす。これにより、システムに組み込まれた重要な業務知識を失うことなく、より柔軟で拡張性の高い新しいシステムへの移行が可能になる。
金融業界のDXが加速する中、こうした技術は金融機関のIT基盤を近代化する重要な鍵となりそうだ。レガシーシステムの「ブラックボックス化」を防ぎ、次世代に知識を継承するための技術として、金融機関のIT部門で活用の検討が進んでいる。
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