韓国のスタートアップ市場は急成長を遂げ、世界市場への進出を模索する企業が増えている。特に、IT技術やAIを活用した革新的な企業が次々と誕生し、グローバル競争に挑んでいる。
このような状況の中で、韓国スタートアップの現状、課題、そしてグローバル展開のための戦略について、ソウルに拠点を置くベンチャーキャピタル(VC)SBVA(エス・ビー・ヴイ・エー、旧SoftBank Ventures Asia)のCEOであるJP Lee(ジェイピー・リー)氏にインタビューした。
JP Lee(ジェイピー・リー)、SBVA(エス・ビ・ヴイ・エー)のCEO。韓国のKAIST(韓国科学技術院)でコンピュータサイエンスを専攻し、大学在学中にスタートアップ「Evixar」を創業。2010年に2度目のスタートアップ「Enswers」を創業し、いずれも上場企業に売却。2015年にSBVA(旧ソフトバンクベンチャーズアジア)にディレクターとして入社し、2018年にCEOに就任(SBVA提供)2000年にソフトバンクグループのアーリーステージVCとして設立されたSBVAは20年以上にわたり、IT分野を中心にグローバルなスタートアップ投資を展開してきた。2023年、同社はソフトバンクグループから独立し、新たに設立されたThe Edgeofの傘下となった。
The Edgeofは、スタートアップへの投資・育成を手掛けるMistletoeのファウンダーである孫泰蔵氏、Co-founder & Chairmanの大蘿淳司氏、そしてJP Lee氏の3人により共同設立された。SBVAは現在、複数のファンドで約20億ドル規模を運用していて、投資先はテクノロジー、AI、モビリティ、Eコマース、金融テクノロジーなど多岐にわたる。
環境に優しく、火災のリスクが極めて低いバナジウムイオン電池を世界で初めて開発した韓国スタートアップのStandard Energy、AI技術を活用し、初期段階のがんを検出できる医療用AIソフトウェアを提供する韓国Lunit、近隣の買い手と売り手をつなぐオンラインマーケットプレースを運営するDaangn(韓国版メルカリ)、東南アジア有数の中古車取引オンラインプラットフォームを展開するシンガポールのCarro、AI教育プラットフォームQANDAを提供する韓国のMathpresso社などだ。
SBVAは韓国、東南アジア、米国、中国などの主要市場に独自のネットワークを築き、スタートアップの成長を支援している。例えば、韓国企業が日本市場へ進出する際、ソフトバンクをはじめ、創業以来SBVAが培ってきた現地のネットワークを活用することによって市場開拓がスムーズに進むケースが増えている。
SBVAは、ディープラーニングやAI技術を活用した企業に積極的に投資している。画像認識AIに関連するコンピュータビジョン技術を持つ韓国Lunitは、SBVAの助言を受け、ファッション業界からメディカル業界へ転換した結果、成功を収めた。このように、SBVAは単なる資金提供者ではなく、技術の応用分野についてのアドバイスも手掛けている。そして、投資先企業や創業者との長期的なパートナーシップを築くことを重視し、事業成長を支援している。同社には起業経験者やエンジニア出身のメンバーが多く在籍し、実践的なアドバイスを提供できるのが強みだ。
2024年には、総額420億円規模で、3つのファンドを立ち上げた。その一部を活用し、日本市場へも積極的に投資する予定だという。SBVAは単なるVCではなく、スタートアップの成長を長期的に支えるパートナーとして、グローバルなエコシステムを築いていく。
「ソフトバンクグループだった際に培ったネットワークなどを活用しながら、日本市場のスタートアップにも投資を広げていく。特にAIやディープテック領域で、日本の強みを生かしたスタートアップが出てくることを期待している」(JP Lee氏)
韓国のスタートアップは、技術力の高さに最大の強みがある。Naver(検索エンジン)、KakaoTalk(メッセンジャーアプリ)、Coupang(eコマース)など、国内市場で成功を収めた企業が生まれた。それらの企業のエンジニアや経営陣が独立して新たなスタートアップを立ち上げる流れも加速している。
一方で韓国スタートアップが直面する大きな課題には「国内市場への依存」もあるという。成功を収めた企業の多くが韓国内での成長に満足し、グローバル市場への進出が限定的になっているのだ。この課題を解決するためには、グローバル市場を意識した経営戦略が求められる。JP Lee氏は、韓国のスタートアップがグローバル市場で成功するためには、以下の戦略が不可欠だと話す。
JP Lee氏に、日本と韓国のスタートアップのCEOの戦略の違いを尋ねた。文化的・経済的背景からいくつかの違いが見られるという。日本のCEOはリスク回避を重視し、安定性や品質を優先する傾向がある。長期的な計画を立て、既存技術の改良や大企業との連携を通じて成長を目指すものの、グローバル展開には慎重で、意思決定にも時間がかかることが多い。
一方、韓国のCEOはリスクを積極的に取り、迅速な意思決定と大胆な投資を好む。特にITやAI分野でのイノベーションに注力し、短期間での成長とグローバル市場進出を目指すという。韓国では政府の支援が充実しており、VCからの資金調達も活発だ。トップダウンのリーダーシップも強く、結果主義の傾向がある。日本は安定と信頼を重視する一方、韓国はスピードと競争力を重視する戦略を取る点が大きな違いだという。
SBVAによるAIやディープテック領域への投資から、日本のスタートアップ企業がグローバル戦略をより取り入れ、グローバルでのビジネス展開が進みそうだ。「日本発世界」のスタートアップ企業は生まれるか。
ベアーレ・コンサルティング株式会社 代表取締役社長(CEO)。
イタリア・オリベッティ社に入社し、英国ケンブリッジ大学との共同最先端技術の部隊「マルチメディアタスクホース」に選ばれ、NTT、日本IBMなど最先端技術販売に成功し、社長賞、トップセールスなど多数受賞。その後、日本初上陸最先端テクノロジーに魅かれ、米国DirecTV技術を利用した通信衛星インターネットサービス会社の立ち上げに設立から従事し、ソニーミュージック、ソフトバンク(当時、日本テレコム)、日立電線などから3億5000万円の出資を受け新会社ダイレクトインターネット社設立に成功。
日本をはじめ、香港、マレーシア、インドネシア、シンガポール、オーストラリアなどグローバルビジネスデベロップメントも経験。
最先端テクノロジーを誰でも、いつでも、どこでも利用できるような、豊かな未来創りに少しでも役立っていきたい、もっとスピード感のある日本社会、そして幸せな生活プラットフォーム作りを支援し、提供していくために、1996年ベアーレ・コンサルティング株式会社を設立。
イスラエルビジネスのパイオニアとして、2001年からイスラエルハイテクスタートアップ企業への支援事業をスタート、現在も支援事業を拡大中。
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