井阪氏がトップに立ったセブン&アイの9年間は、グループ全体がコンビニ事業に寄りかかった“一本足”の経営から、脱却できなかった。カリスマ性のある鈴木敏文氏から経営を受け継いだものの、イトーヨーカドー、そごう・西武の不振というグループの経営課題を解決できなかった。
結果的にそごう・西武やヨーク・ホールディングスを切り出したものの、いわゆる「物言う株主」である米国投資ファンド、バリューアクト・キャピタル・マネジメントからの「コンビニのみに経営を絞るべき」という提案に右往左往し、対策が後手後手に回った。
結果的にバリューアクトの言いなりになったように、コンビニ事業に集中することになる。事業多角化による負の側面は「コングロマリット・ディスカウント」と呼ばれる。セブン&アイは事業間の相乗効果を生み出せず、株価が低迷していたといえ、バリューアクトはそこに警鐘を鳴らしていたのだ。
最終的には頼みのセブンも不調になって、今回の発表は井阪氏の引責辞任と見る向きも多い。本記事ではあらためて、井阪氏が率いたセブン&アイの9年を振り返り、デイカス氏が取り組む問題をあぶり出してみよう。
2016年、社長に就任した井阪氏は、セブン-イレブン・ジャパンの大卒社員1期生であり、商品開発のエキスパートとして歩んできた。プライベートブランド「セブンプレミアム」の立ち上げでは、中心的な役割を果たしたという。
社長就任の背景には、大株主である創業家・伊藤家の意向があったとされる。世代交代を主な理由として、絶対的権力者の鈴木氏を引きずり下ろしたというのが通説だ。
伊藤家に視点を移すと、グループ創始者である故・伊藤雅俊氏の長男、裕久氏が鈴木氏の後任を期待されていたが、2002年にイトーヨーカ堂の専務を突如退任。代わって鈴木敏文氏の次男である鈴木康弘氏が台頭し、2015年にセブン&アイ取締役となった。康弘氏がそのままセブン&アイの次期社長になると目されたが、井阪氏を担いだ伊藤家のクーデターにより、敏文氏のみならず康弘氏も取締役を辞任している。
伊藤家はクシュタール社からの買収を逃れるため、MBOを実施して非上場化を狙うものの、自社株を買うための9兆円という巨額の資金を調達できずに断念。当てにしていた伊藤忠商事も出資を断念した。
ファミマとセブンが「伊藤忠化」する――? 経営陣による「9兆円」MBO、日本史上最大の企業買収劇のゆくえ
やっぱり、セブン&アイの買収提案は悪い話なのか いやいやそうでもない、これだけの理由Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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