さて、井阪氏が社長に就任したのは2016年5月。2016年2月期は連結営業収益が6兆457億円だった。ここから2024年2月期の数字を考えると、就任期間で売り上げがほぼ倍増した。営業利益も成長している。
主要3事業を見ると、コンビニエンスストア事業は営業収益の大半を海外が占める。井阪体制で海外の売り上げが躍進したわけで、これだけの実績を上げて、何が不満なのか、井阪氏としては納得できなかっただろう。全世界の店舗数も大きく伸びている。
国内は2016年2月末に1万8572店だったのが、コンビニ業界は頭打ちとされながらも現在は2万を超えた。北米でもM&Aを積極的に進め、1万店を超える。20の国と地域に進出しているが、就任期間でここは大きく伸びておらず、株主から見れば物足りなかったかもしれない。
イトーヨーカドーを中心とするスーパーストア事業は、縮小しながらも利益率は少々改善。ヨーク・ホールディングスはベインの保有株式比率が6割、セブン&アイと創業家が4割として再出発し、3年以内の上場を目指すという。井阪体制でできなかったイトーヨーカドーの再建を、3年で成し遂げられるかは疑問だ。売却済みの百貨店事業は、2016年から売却前の2023年にかけて6割ほどに営業収益が縮小し、スーパーストア同様に利益率が低いまま推移していた。
ヨーカドーやそごう・西武を再建するため分散していた人材を、セブンだけに集中させれば、もっと業績を伸ばせる可能性はあるだろう。2026年以降に、米国事業会社を上場させるプランもある。
クシュタール社は3月13日、創業者かつ会長のアラン・ブシャール氏が来日して記者会見を行い、あらためてセブン&アイ買収の意欲を示した。しかし、同じ「コンビニ」でも、米国のサークルKと日本のセブンは別物だ。
クシュタールの売り上げで大半を占めるのは、ガソリンスタンドなどの道路運送用給油事業である。クシュタールに、日本の食にこだわるコンビニを経営できるとは到底思えない。北米セブンもガソリンスタンドに売り上げを依存しているのは同じだが、日本で培ったフレッシュフードのノウハウを生かして業績回復を目指す。
デイカス新社長には、日本と海外、特に日米におけるコンビニの違いを踏まえた上で、適切な施策を打つことを期待する。国内ではまず、批判の絶えない“上げ底弁当”疑惑の解消から始めてはどうか。
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
ファミマとセブンが「伊藤忠化」する――? 経営陣による「9兆円」MBO、日本史上最大の企業買収劇のゆくえ
やっぱり、セブン&アイの買収提案は悪い話なのか いやいやそうでもない、これだけの理由Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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