もっとも、現在の覇権を握るSuicaも新興勢力の台頭を前に静観しているわけではない。JR東日本は「Suica Renaissance」を発表し、今後10年をかけてMaaS時代に対応する態勢を整えていく。王者の反撃は「Suica アプリ(仮称)」をベースとし、マイナンバーカードとの連携により、地域内の生活コンテンツやサービス(地域割引商品やデマンドバスなど)の提供、商品券や給付金の受け取りや行政サービスの利用を実現するという壮大なビジョンだ。これは単なる交通系ICカードからの脱却を意味し、DXによる生活プラットフォームへの変革を目指している。
さらに、移動や生活シーンでのSuicaの利用データを活用し、「旅行時に新幹線が到着したらタクシーが待っていたり、帰宅時にお風呂が沸いていたりする『おもてなし』サービスや、お客さまの健康状態に合わせた食事のレコメンドをする『お気遣い』サービス」も実現するとしている。
MaaSを軸として、タッチ決済が切符の電子化から一歩先に向かい、王者Suicaも追いかける構図だ。
なお、大掛かりな展開とは別に、タッチ決済については早急に解決してほしい課題もある。交通費精算への対応だ。SuicaやPASMOはICカード自体から履歴を読み取ることや、JRのサーバーから乗降駅と日付金額のデータを取得して、会計ソフトと連動させることが可能だ。ところがタッチ決済は、カードの明細に乗降駅などの詳細が記載されない。
この課題に対しては、タッチ決済の裏側のシステムを作っているQUADRAC社が「Q-Move」というサイトで乗降履歴を提供している。ただし、会計ソフトがQ-Moveに対応していない点や、Q-Moveのデータ保存期間が365日しかないといった問題がある。365日という保存期間では、確定申告作業を始める2月頃には前年1月〜2月初めのデータがすでに消えてしまっているため、前年分のデータを年末にダウンロードしておく必要があるなど、実務上の不便さが解消されていない。
日本の公共交通システムの覇権をめぐる戦いはここから本格化する。長年にわたりSuicaが築き上げてきた王座に、タッチ決済を軸としたMaaS革命の波が押し寄せている。使い勝手や互換性、データ活用の可能性など、さまざまな観点からの競争が予想される。消費者はこの激しい競争の恩恵を受けるとともに、最終的に交通DXがもたらす未来像を見極めることになるだろう。
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
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