CxO Insights

ユニクロ「R&Dのトップ」に聞く 世界で勝ち抜くために続けること感動シリーズ10年目

» 2025年03月27日 05時00分 公開
[篠原成己ITmedia]

 ユニクロ「感動パンツ」「感動ジャケット」シリーズが、シリーズの原点となる「ドライストレッチパンツ(ウールライク)」を2015年に発売してから、2025年で10周年を迎える。

 同社は3月3日、発売10周年を記念した新商品発表会を開催。同シリーズの伸縮や軽量、速乾性に加え通気、肌離れの機能性と着回しやすさをアピールした。

photo 新商品発表会で、感動シリーズの伸縮や軽量、速乾性に加え通気、肌離れの機能性と着回しやすさをアピール(以下、ユニクロ「感動パンツ」10周年 新商品発表会)

 特にコロナ禍以降、ビジネスウェアの在り方も変わりつつある。コロナ禍入りした直後の2020年と2023年の「出勤や外勤で仕事をする際にどんな装いか」の調査を見ると、スーツ派は61%から50%と、約11ポイントも減少した。一方、ジャケット+パンツという「ビジネスカジュアル」派は39%から44%へ約5ポイント伸びている。コロナ禍の3年間は、ビジネスウェアにとって大きな変革期となったといえそうだ。

 ユニクロは、あらゆる人の生活をより豊かにするための「LifeWear」(ライフウェア)を提唱している。どの時代でも着られるデザインと、長い年月に耐え得るクオリティーによって、一つの洋服をどれだけ大事に長く着られるのか。LifeWearは、ユニクロの企業姿勢を表すものだ。

 今回はファーストリテイリンググループ上席執行役員ユニクロR&D統括責任者の勝田幸宏氏にインタビューした。同氏はユニクロで長くR&Dの責任者を務め、世界の市場やトレンドの変化を目の当たりにしてきた人物だ。この10年間、ものづくりの観点で変わったことは? 時を経ても変わらないものとは。ユニクロのものづくりの本質に迫る。

photo 勝田幸宏(かつた・ひろゆき)ファーストリテイリング 上席執行役員/ユニクロ R&D統括責任者。1986年青山学院大学卒業。 同年伊勢丹入社。1992年、当時伊勢丹の提携崎であるバーニーズ ニューヨーク本社へ出向し、メンズ・スポーツウェア、クロージング・マーチャンダイジング・コーディネーターを務める。1994年バーニーズ・ジャパンへ出向。1998年、ポロ ラルフ ローレン ニューヨーク本社へ。1999年、バーグドルフ グッドマンに転職、メンズ・スポーツウェア商品統括部長、2001年、取締役統括部長を務める。2005年、ファーストリテイリングに入社し、ユニクロR&D統括責任者として2025年で20年目を迎える

「ユニクロR&Dのトップ」が社員に聞いていること

――コロナ禍を経て、ビジネスシーンでも服装の在り方が多様化し、スーツの需要が減りつつあるように感じます。今後スーツは少しずつ市場から消えていくのでしょうか?

 なくなることはありませんね。スーツは正装の最高峰ではないですか。それこそ正装しなければならない場面と言えば、結婚式をはじめ、いろいろあると思いますが、そういうシチュエーションは絶対になくならないと思います。そのときに着る最高の服が、スーツなんです。

 現にユニクロも規定サイズの感動ジャケットを作っていますが、実は「カスタムオーダー」のサービスも展開しています。もちろん時代によってトレンドの波はあると思いますが、そういう意味でスーツはなくならないと思います。

――勝田さんは、長くR&Dのトップとして、さまざまな商品やサービスを手掛けてきました。ユニクロ全体において、感動シリーズの位置付けはどのようなものなんでしょうか。

 年々この「感動」シリーズを支持してくださる方が増えてきていて、春夏の「感動」シリーズが、ある意味ユニクロを代表する商品の一つになりつつあります。だから、この春夏は非常に重要で、これが売れなかったら困るといいますか(笑)。皆さんにもっともっとご愛用をしていただければならないという位置付けです。

――感動シリーズも10年目を迎え、この間いろいろなことがあったと思いますが、市場の変化をどのように感じていますか。

 服は高いとか安い、有名とか無名ではなくて、結局、毎日着ないと、価値があるのかないのかが分かりません。その服がユニクロであろうと他のブランドであろうと、着る人に「何だかんだいってやっぱりいいからこの服を着ちゃう」と思わせる服を作っていかないといけないと感じています。

 よく「ヘビーローテーション」という言葉を使いますよね。私は全てのユニクロの服が、本当に「ヘビロテ」されるアイテムにしたいと考えています。ではユニクロの服が、その「ヘビロテ」になるためにはどうすればいいのか。

 私はよく会社で「お客さまにとって新しいヘビロテアイテムとは何?」「みんなのNewヘビロテって何?」ということを社員に聞いています。結局いくら良い服を買っても大事に持っているだけでは意味がありません。着なければ自分にとって「似合っていた服」なのか、「良かった服」なのかが分からないままなんです。

 服は、どんなものでも「着てみてなんぼ」です。結局のところ、値段やブランドよりもその人が毎日着たくなるものなのかどうかが重要です。そのような服を最高の完成度にする。そして毎日着るわけですから、手頃なものにしなければならない。その服を気に入って「毎日着ていただける」、そんな服を作りたいと考えています。

 ユニクロが提唱するLifeWearの主役は洋服ではなく、その洋服を着た人自身なのです。

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――ここ20年間で考えてみると、ユニクロは「日本で最も躍進した企業」と言っても過言ではないと思います。その躍進の核にはLifeWearという概念もあると思います。今後の世界の市場で勝ち抜くためには、何が重要だと思いますか?

 創業者の柳井正自身が1つ1つ自分の目で見て、われわれと一緒に良い・悪い、「こうしたらもっと良くなるからこういう風に変えていこう」ということを、今も最前線でやっている。そのことが大きいと思います。もちろん柳井だけでなく、他の役員も、私たち商品に携わる責任者も一緒です。

 本当にこれでいいのか。これが来週、来シーズン、お客さまのためになり、みんなが「こんな服が欲しかった!」と言ってくれるのか。その人が気に入って毎日着てくれる服になるのか。そして着る人の個性を作ることができるのか。こうしたことを追求し続けることに尽きると思います。

――なるほど。グローバルで勝ち続けるユニクロイズムの根底には、極めて日本的なものづくりの精神が息づいているのですね。

 もちろん海外にも先祖代々、受け継がれたクラフトマンシップはあると思います。ただ、続けると一言で言っても、実際にはとても難しいことです。忍耐も必要ですし、どんなことがあってもぶれない明確なビジョンがないといけない。

 当社の場合は、そういう部分がしっかりしているのだと思います。細かく言うと仕事の仕方といいますか、会社のビジョンといいますか、仕事への志ですかね。そういうことが創業当時から今も変わっていません。

 そして私もユニクロで20年やっているのですが、これからも変わることはないでしょう。あらゆる人の生活をより豊かにし、着る人の個性を作るという考えが根底にあり「どれだけ突き詰めて考えられるか」に掛かっています。その志こそが、感動シリーズやユニクロの生命線だと思っています。

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著者プロフィール

篠原成己(しのはら なるみ)

1970年生。建設業・広告業・不動産業、物流業など様々な職種を経験する。現在は、ライターwithタクシードライバーとして、乗客を乗せながら、巷のつぶやきを収集中。今まで職業経験を生かし、主にWeb媒体にてコラム・記事を多く執筆する。

ブログ:『吾は巷のインタビュアー!


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