ユニクロが循環型ビジネスに本格的に取り組んでいる。
同社は10月11〜22日までの12日間、期間限定で古着を販売するポップアップストアを東京・原宿店で展開した。古着を販売したのはこれが初めてで、今回のトライアルをもとに事業化の実現性を検討したいという。
ユニクロが古着販売によって循環型ビジネスに取り組む理由は何か。背景にはファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏が20年以上前に経験した海外展開でのエピソードと、そこから得た強い思いがあった。
フリースブームに火を付けたユニクロ原宿店に登場した「UNIQLO古着プロジェクト」のポップアップストア。販売しているのは、顧客から回収したユニクロの衣料による古着だ。
商品は大きく分けて2種類ある。1つは、染め加工と洗い加工を施してリメイクした古着。染め加工はユニクロのパートナー企業である石川県の小松マテーレ社が担当した。独自の染色技術によってヴィンテージな風合いに仕上げられたカジュアルシャツ、Tシャツ、スウェットなどが並ぶ。
もう1つは、リユースの古着だ。回収した衣料の中から、まだ十分に着られるものを厳選して、洗濯と検品をしたものだ。ウールやカシミヤはニットを専門に生産する東京・東雲のユニクロ関連会社工場「イノベーションファクトリー」で洗濯し、毛玉を取り除いた上で販売している。
目を引いたのはリユース古着の価格だ。もともと1万2900円だったカシミアセーターを3000円で販売していたほか、カジュアルシャツやスウェットは1000円から、アウターやボトムスは1500円からと、手頃な価格に設定していた。
ユニクロが古着販売に取り組んだのは初めて。今回はあくまでトライアルで、利益の一部は渋谷区社会福祉協議会に寄付する。ユニクロで社会貢献やサステナビリティに2001年の入社当時から関わっている、グローバルマーケティング部サステナビリティマーケティングチームのシェルバ英子部長は、古着販売は循環型社会を目指す取り組み「RE.UNIQLO」の一環だと説明する。
「全商品を対象とした回収活動を始めたのが06年です。そのうち8割強をリユースして世界中の難民キャンプに届ける活動を20年近く続けています。私もアフリカの国々を中心に15カ国ほど足を運びました。
当初は人道支援が中心だったものの、今では環境問題への対応を急ぐ必要も出てきています。そこで、サステナビリティを事業の中に取り込んで、循環型の新しいビジネスモデルを作っていこうと、21年12月に発表したのが『LifeWear=サステナビリティ』という考えです。古着の販売は当時から構想していて、2年近く経ってようやくトライアルにこぎつけることができました」
ユニクロでは循環型ビジネスモデルを発表後、今回の古着以外にもサステナブルの観点を取り入れたサービスの提供を始めている。その1つが「RE.UNIQLO STUDIO」だ。古くなったユニクロの服を修理するリペアや、自分の好みにカスタマイズするリメイクが店舗でできる。
リペアとリメイクは、独ベルリンにある店舗で開催したワークショップから生まれた。国内外のごく一部の店舗でトライアルしたのちに、今年4月に群馬県前橋市にオープンした「UNIQLO LOGO STORE」第1号店の前橋南インター店で本格導入した。今年9月末時点では14の国と地域の33店舗で展開。日本でも9店舗に導入していて、今後も拡大していく。
この「RE.UNIQLO STUDIO」は、単にリペアやリメイクをするだけではない。リメイクでは日本の伝統的な刺しゅうの「刺し子」をはじめとする、豊富な刺しゅうのメニューを用意しているほか、ジーンズやTシャツからトートバッグを作るなど、世界で1つだけのアイテムを作れる。
今回の古着プロジェクトで提供したのも、世界で1着だけの古着だ。前述したヴィンテージな風合いを出す高品質な染め加工のほか、古着を自分好みにカスタマイズできるワッペンも用意した。シェルバ部長はその狙いを次のように明かす。
「古着であってもお客さまに楽しんでいただきたいですし、それなりの価値があるものでなければ買ってもらえないと思います。今回は時間をかけて、弊社としても販売したくなるような付加価値がある古着を用意しました。
小松マテーレさんと組んだ染めの技術や、自社工場の技術を使うことで、他の古着屋さん以上のクオリティーを担保しながら、ユニクロのプライスで提供する。このクオリティーとプライスをようやく実現できる段階にきています」
今回の原宿店では、毎日常時400点から500点の古着を用意した。ただ現時点で、古着を直ちに多店舗で販売することは考えていない。シェルバ部長によると、今後も日本国内の店舗でのトライアルを通じて、事業化の可否を検討していく方針だ。
「ユニクロの商品であり、ユニクロで買いたい価格というお客さまの期待は裏切りたくないと考えて、今回の価格を設定しました。古着を量産していくことは現時点では考えていません」
一方ビジネスとして展開する上では、まだまだ課題があるという。
「今はお客さまから無償で回収することによって古着を調達しています。難民キャンプに救援物資として送る計画以上に古着が集まっていますので、今回はその中から商品化をしました。ただ、本格的にビジネスとして進めるのであれば、お客さまから買い取るなど回収のスキームも見直さなければなりません。
また、本当に古着を買ってもらえるのか、販売するまでは全く分かりませんでした。古着と新品を一緒に販売することが成り立つのかを、今回のトライアルの結果から検証したいと思っています。古着と新品がうまく共存しながら、組み合わせで買っていただける共存型のビジネスモデルが描けたらいいですね」
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