「もはや学生が憧れる企業ではなくなっている」――東日本電信電話(以下、NTT東日本)でインターンシップの設計を担当していた伊藤信吾氏(経営企画部 企画部門 事業戦略推進担当)が、かつて自社の採用力低下を懸念し、発した言葉だ。
ITmedia ビジネスオンライン編集部がNTT東日本のインターンを初めて取材したのは今から約2年半前の2022年9月。「学生の憧れの企業から年々離れていっている」という現場の危機感から始まったインターン改革を取材した。
同社は、2021年に技術系コースのシステムエンジニア(SE)向けインターンプログラムを大幅に変更。これを皮切りに、2022年にはネットワークエンジニア向け、2023年にはデジタル向けのインターン内容を見直してきた。
その結果、インターン制度を改革した2021年度と比較し、これら3つのコースにおける応募者数は2024年度時点で約3倍にまで増加。現在、インターンシップのエントリー数は1万人を超える勢いで、従来の夏と冬のインターンに加え、秋のインターンも新設するなど、プログラムの拡充を続けている。
基盤を整え、その上に着実に成果を積み上げているようにみえるが、現在に至るには、採用戦略の軌道修正や現場と人事部の連携、ダブルワーク制度(メンター制度)※の強化など、さまざまな試行錯誤があった。
※理想のキャリアを描くため、NTT東日本グループ内のさまざまな業務に従事できる制度。新たなスキルの獲得や実践・専門分野の探求など自身のキャリアプランに合わせた実践できる
NTT東日本の採用はどう進化したのか。ここまでの変革の軌跡を振り返る。
同社の採用について取材した。(左)伊藤信吾氏(経営企画部 企画部門 事業戦略推進担当)、(中央)佐近祐貴氏(総務人事部 人事第二部門 採用人事担当 チーフ)、(右)田邉朔弥氏(総務人事部 人事第二部門 採用人事担当)NTT東日本では、人事異動により新卒採用担当の社員が2〜3年周期で入れ替わるため、積み上げてきた採用ノウハウを引き継ぐことに時間を要していた。その結果、変化の激しい新卒採用のマーケットで学生の要望に十分に迅速に応え、新たな採用の仕組みを定着させるのが難しい状態だった。
「学生の中でNTT東日本のイメージを変えるためにも、5年間は体制を継続してほしいという思いで今の採用の仕組みを立ち上げました」と伊藤氏は経験則を踏まえ説明する。
「組織の変化はこれまで3年周期で浮き沈みを繰り返してきました。しかし、5年というのは、その周期を超え、より持続的な変化を生み出すための期間だと考えています。1〜2年目で改革を進め、3〜4年目は基盤を固める時期。そして4〜5年目にかけては、ある意味で2回目のスケールとなるフェーズです。ここで上向きのカーブを描くことができれば、本当の意味でスケールアウトが実現する、そんなイメージを持っていました」(伊藤氏)
この課題を解決するため、人事部はダブルワーク制度を活用。現場の社員が、本業と並行しながらメンターとしてインターン業務に関われる仕組みを作り、採用に携わる社員の裾野を広げた。
メンター経験を通じて、採用業務の実態や可能性を理解した社員が次の人事担当になることで、スムーズな引き継ぎを実現し、組織の成長を支える。これらの取り組みを通し、採用のノウハウを組織的に蓄積・継承できる体制を整えていった。
実際に、主にSEコースの採用人事として活躍する田邉朔弥氏(総務人事部 人事第二部門 採用人事担当)は、ダブルワーク制度を活用しメンターを経験した後、総務人事部へ異動。メンターとして学生と関わる中で、採用業務の実態や学生の変化を知れたため、知識のギャップを最小限に抑えながら業務を引き継げたという。また、ダブルワークを通じて培った経験を生かし、採用業務の引き継ぎフローやダブルワーク制度の改善を進めながら、継続的な運用体制を整備していった。
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