こうしたインターンはブランディングの一環として有用だが、企業によっては単なる選考プロセスと位置付けて運用されることも少なくない。NTT東日本は「学生が成長機会を得られる場」という設計を一貫していると、伊藤氏は自信をみせる。
ただし、インターンは学生にとっても企業を判断する場であるため、企業が一方的に評価を押し付けるものではない。特に、Z世代の学生たちは、自身の成長を強く意識している。就職活動でも、企業の安定性だけでなく、どれだけ成長できる環境があるかを重視する傾向が強いという。
こうした背景を踏まえ、NTT東日本のような大企業においても、若手が活躍できるフィールドを広げることが求められてきた。その一環として、同社ではインターンの設計にも力を入れ、学生が成長を実感できる機会を提供している。実際に、本インターンを経験した学生からは「5日間で成長できた」という声が多く寄せられている。
こうした評価は、母集団形成にも影響を与えている。 大学の研究室の先輩からの紹介やSNSの口コミを通じ、NTT東日本のインターンへの参加を決める学生が増えているのだ。特に、同社に就職しない学生にとっても、インターンの経験は有意義なものとなっている。キャリア形成を促すため、ワークとライフの両面を考慮した設計を行い、学生が満足できる体験を提供しているからだ。その結果、就活後も関係が続くケースが増えているという。
「自分が本気で取り組める仕事を見つけることができた」というお礼の連絡や、「NTT東日本のインターンシップに参加することで自身の納得する就職活動を送ることができた」といった感謝のこめられた辞退連絡も増えたという。同社がファーストキャリアでないとしても、長期的なファンの獲得としても有用だ。
これらの活動が就活生にも認められている。就活サイトを運営する、ワンキャリアが実施した「就活クチコミアワード2025」では総合ランキングで5位を獲得した。
また、こうした取り組みは、企業の姿勢を伝える機会にもなり、変革に挑戦したいと考える学生の増加にもつながっている。採用制度を変えたこの5年間で、単に安定を求めるのではなく、挑戦の機会を重視する学生の母集団が広がってきた。
NTT東日本の採用戦略は、人材獲得にとどまらず、企業ブランディングにも直結する取り組みへと進化してきた。現在、経営企画部で事業戦略を推進する伊藤氏は、今後3年間でブランド価値をさらに高め、「この企業の商品を選びたい」と思われる存在へと発展させることを目指す。
「ネットワークエフェクトを広げることで、NTT東日本のブランド価値はさらに向上します。特に若年層は情報拡散力が高いため、その層にアプローチできれば、デジタルマーケティングの面でも優位性を獲得できるはずです。採用活動を通じて企業の魅力を発信し、それが最終的にブランド価値の向上につながる形を作りたいと考えています」(伊藤氏)
同社では、企業ブランドの強化とともに、社員一人一人の市場価値を高めることも重要視している。そのため、採用活動で得た知見を社内に還元し、社員のブランディングや帰属意識の向上にもつなげていく。
「今までの取り組みを通じ専門性が高い人材が集まりつつあります。今後は、つなぐDNAをはぐくんだ自社の強みと、専門性の高い社員のシナジーにより、さらなる地域循環型社会の共創を加速させることが可能になるはずです」(佐近氏)
技術革新のスピードが増し、日々市場が変化する現代において、現場の社員が持つ知識やスキルが企業成長の鍵を握る。そうした現場の強みを最大限に生かせる仕組みを整え、社員のモチベーションと専門性の発揮を促していく。
採用はゴールではなく、むしろ企業の成長を支えるスタートラインだ。入社後の育成が企業の持続的成長を支える重要な要素となるため、採用と育成をより密接に連携させ、社員がスムーズに成長できる仕組みを整える必要がある。
「インターンそのものはまだまだ進化途中です。事業環境を踏まえると今よりもさらなる若手の早期活躍が必要となります。そのためには、今以上に入社いただく全社員を手厚くフォローアップする仕組みを強化し、育成段階のフィードバックや事業環境の変化をいち早くキャッチしインターンシップも事業に合わせて柔軟に変更していく必要があります」(田邉氏)
採用の枠を超え、企業の未来を創る。その意識のもと、NTT東日本のこれからを担う中堅社員たちは、採用を起点に企業成長の土台を築き上げてきた。5年にわたる採用戦略の進化はこれから、育成、組織強化、ブランド価値向上へと広がり、次の3年間でさらなる変革のステージへ向かおうとしている。
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