リテール大革命

PB強化、AI活用で独自色 トライアル傘下入りで西友はどう変わる?後編(2/3 ページ)

» 2025年04月08日 08時00分 公開

惣菜で独自色、ITにも注力するトライアル

 トライアルも同様、韓国直輸入カップ麺(59円)や国産トラコーラ(29円)など価格訴求一辺倒といえるPBが中心であったが、2011年8月に同社初となる複合宿泊施設「長者原温泉トライアル温泉郷」を開業し、飲食店を併設。2016年10月に地場飲食「明治屋」を子会社化したことが転機となった。

 同社は明治屋子会社化にあわせて惣菜PB「こはく本舗」を立ち上げ、福岡香椎のミシュラン1つ星フランス料理店「颯香亭」の金丸建博シェフを始めとする有名ホテル・和洋中華料理店料理長クラスを招聘(しょうへい)。宿泊から派生した外食部門と本業の惣菜部門の商品開発を複合的に行うことで、競合が真似できない惣菜売り場を実現した。

 歴史的に食品小売と飲食の結び付きは深く、ダイエーの仕入調達網を生かし創業したステーキレストラン「フォルクス」や、首都圏新興のロピアによる和食料理「道場六三郎事務所」買収による本業精肉部門を生かした焼肉新業態、コロナ禍以前よりトレンドとなったグローサラントまでさまざまな事例こそあるが、外食部門のノウハウを惣菜部門に落とし込む形で両事業を複合化したトライアルの取り組みは稀有(けう)といえる。

グロッサリア脇田「ミヤワカキッチンKOHAKU」の炭火焼きハンバーグ。ミシュラン星付きレストランでセクション長を務めたという今西洋平太シェフによる宮若地産地消レストランの人気メニュー

 また、2018年2月の日本初のスマートストア「スーパーセンタートライアルアイランドシティ店」では、決済機能付きレジカート(現SkipCart)やAIカメラによる商品管理分析を導入。

 同年11月には創業家出身の永田洋幸氏(現トライアルHD代表取締役社長)主導のもとAI開発子会社「Retail AI」を設立。同年12月の小商圏型新業態1号店「トライアルQuick」ではAIを生かした欠品商品自動発注や日本初の夜間無人営業を開始するなど、最新技術を前面に押し出した業態開発を試みるようになる。

TRIAL IoT Lab。廃校舎跡を活用したトライアルのAIデバイス開発センターだ

 2020年9月には福岡・宮若市と官民連携協定を締結し「リモートワークタウンムスブ宮若」の整備を開始。廃校跡を生かした産直食品スーパーやAI開発拠点に加え、公営宿泊施設跡への宮若温泉郷「宮若虎の湯」開業、旧国鉄筑前宮田駅前で長らく廃墟状態となっていた大型店跡地へのスーパーセンター開店や脇田温泉街ビジネスホテル跡地への研修所開設を段階的に進めたことで、県外からも観光客が訪れるようになった。

 ムスブ宮若で開発されたSkipCartやデジタルサイネージといったデバイスは、イオン九州やリテールパートナーズといった同業競合他社にも供給され、2024年の九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集に応募した際にはセブン&アイHDといった同業他社グループを含む小売流通・食品系企業40社超の賛同を得るなど、リテールDX分野においては業界内の盟主として、まちづくり企業として進化を遂げつつある。

TRIAL GO脇田店inみやわかの郷。廃校舎跡を活用したAI開発拠点「MUSUBU AI」や体育館跡を活用したフードホール「GROCERIA」、産直併設食品スーパーの複合施設だ

 2025年4月現在放映中のテレビCMは、価格訴求ではなくリテールDXや惣菜を始めとする商品開発に焦点を当てたものであり、IT小売を前面に押し出すかたちでのリブランディングを実現した。

 同社の動きは吉幾三CM時代の作業着店から機能性アパレルにイメージを塗り替えたワークマン、治安悪化の温床とまで評されたヤンキーの溜まり場から日本食文化発信者としてイメージを塗り替えたドンキにも重なる。

グロッサリアトライアルまどかぴあ店。(現TRIAL GO大野城まどかぴあ前店)惣菜グロサリー主体の都市型食品スーパーと阿部牧場ASO MILK CAFEの複合店舗だった

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