リテール大革命

西友買収、なぜトライアルだったのか? 有力候補イオン・ドンキではなかったワケ前編(1/2 ページ)

» 2025年04月07日 11時00分 公開

 3月上旬、旧西武セゾングループの中核企業だった総合スーパー大手「西友」が、九州本拠の新興「トライアル」傘下となることが決まった。

 トライアルと西友の売上高は合わせて1兆2000億円規模であり、イオンやセブン&アイ、PPIH(ドン・キホーテなど運営)といった巨大流通グループには及ばないもの、ドラッグストアやコンビニ大手各社を押しのけ小売業売上高6位となる。

 西友と意外にも縁の深い流通大手「イオン」「ドン・キホーテ」が争奪戦の有力候補として挙がっていた中、なぜトライアルが買収することになったのだろうか? 前・後編にわたって詳報する。

スーパーセンタートライアル武雄富岡店。衣食住といった生活必需品に特化した4000平方メートル級の標準店舗だ(筆者撮影、以下同)

西友を逃した総合スーパー2社

 西友の争奪戦を論ずるうえで、同社とイオン・ドンキの関係をひも解く必要がある。

接近を試みてきたイオン

 イオンは1990年代に旧西武セゾン系百貨店大手「西武百貨店」(現そごう・西武)と2核1モールの確立を見据えた資本業務提携を締結し、2002年には西武百貨店から生活雑貨大手「ロフト」株式の10%を取得。同時期にも西友支援に関心を示すなど、旧西武セゾン解体の過程で受け皿的立ち回りをみせた。

 イオンと旧西武セゾン系各社の結び付きは、セブン&アイHD発足もあり一時消滅することとなるが、2010年のイオン系生活雑貨店「ROU」発足時には西武百貨店出身の安森健ロフト元代表取締役社長を起用。

 2011年2月には、森トラスト系となったファッションビル大手「パルコ」株式を約12%取得し、都市型商業施設の共同運営を始めとする資本業務提携を打診。2024年10月には地域子会社を介して西友の北海道事業を取得するなど、古くから接近を試みてきた。

緩やかな協業を進めていたドンキ

 ドンキも2022年11月の西友吉祥寺店2階への出店以来、西友直営の衣料住居関連や専門店フロアを転換するかたちで全国4店舗を展開するなど、緩やかな協業関係にあった。

 ドンキは創業以来の強みである大都市圏繁華街やロードサイドのナイトマーケット市場に加え、2007年10月の総合スーパー大手「長崎屋」の子会社化を機に、生鮮4品を取り扱う総合ディスカウント「MEGAドンキ」業態を確立したことで客層を拡大。2017年11月の流通大手「ユニー」子会社化においても同様に、長崎屋の再建手法を踏襲するかたちで従来型総合スーパーを合弁会社「UDリテール」に移管したうえで「MEGAドンキUNY」業態に転換する手法を採ることで同社の早期再建を目指した。

 一方、ドンキによるユニー運営店舗を対象とした急速な業態転換は、東海地方小売流通業界の雄として高級衣料や贈答品需要を担うほどであったユニーのブランドイメージ毀損と顧客流出を引き起こした。

 そこでドンキは2020年6月にユニー新戦略1号店「ピアゴプラス妙興寺店」、同年11月には旧ユニーグループ経営合理化の過程で消滅したディスカウント復活1号店「ユーストア萱場店」を業態転換により新装開店するなど、買収先の経営資源や業態を生かしつつ、ドンキ流個店経営や商品訴求ノウハウを移植する方針に改めた。

 これら新業態の成功も一因となり、ユニー(合弁移管店舗含む)の2019年2月期売上高は6127億円(営業利益217億円/営業利益率3.5%)から、2024年6月期売上高は7029億円(営業利益448億円/営業利益率6.4%)と大幅に改善、コロナ禍による訪日外国人観光客のインバウンド需要消滅で苦境に立たされたドンキの経営基盤健全化にも貢献した。

 ドンキはピアゴプラスの発展型新業態「アピタパワー」「ピアゴパワー」確立やドンキ流直営フロア強化の一環としての複合専門館「生活創庫」復活といった取り組みを引き続き打ち出すなど、令和時代の総合スーパー業態開発に対する評価も高い。

 九州が本拠のトライアルはイオン・ドンキと異なり、西友との間で店舗譲受や共同出店といった関係性が皆無かつ、2017年2月には東京都内から撤退するなど首都圏での存在感に乏しかったこともあり、同社による買収は市場に驚きをもって受け止められた。

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