西友買収、なぜトライアルだったのか？ 有力候補イオン・ドンキではなかったワケ：前編（2/2 ページ）

[淡川雄太（都市商業研究所），ITmedia]

「日本版ウォルマート」目指したトライアルと西友

トライアルとはどんな企業なのか？

　首都圏での存在感に乏しいトライアルとは、そもそもどういった企業なのだろうか？

　トライアルは1974年に福岡市でリサイクルショップ「あさひ屋」として創業。創業当初より家電量販店「エレビット」や小売流通業向けシステム開発に取り組み、1992年10月にディスカウントストア1号店「ディスカウントハウストライアル南ヶ丘店」を開店した。

　トライアル南ヶ丘店は、前年の1991年10月に地場百貨店とスーパーを核に開業した住友生命系複合商業施設「パセオ」の専門店という立ち位置にあり、現在の主力業態とは異なる売り場面積500平方メートル級の生鮮非取り扱い狭小店舗であった。

　同社は創業当初の主力であった家電量販が競争激化により経営不振に陥っており、会社沿革などでは触れられていないが、バブル期にはディスコ経営にも乗り出すなど、次世代の主力事業確立に躍起になっていた。

スーパーセンタートライアル唐津店。2001年12月に経営破綻した九州地場流通大手「ラララグループ」の大型店「寿屋唐津店」を居抜きした店舗。2008年以前のウォルマートCIを意識した看板が特徴であったが、空調設備故障など老朽化が著しく、2019年1月に建替え新装開店となった

　1996年11月には米国本拠の世界的流通大手「ウォルマート」の主力業態をベンチマークした1号店「スーパーセンタートライアル北九州空港バイパス店」を開店。1998年10月には福島が地場の衣料スーパー大手「ナカヤ」とFC契約を締結（後に直営化）することで本州進出を果たした。

　2000年代初頭には九州地場流通大手「寿屋」や、日本版スーパーセンターの先駆だった「オサダ」といった経営破綻した企業の店舗跡を居抜きすることで、同社の本拠である九州での影響力を確立。同様の取り組みを全国各地の大型店跡に広げることで、短期間で店舗網を拡大した。

日本版スーパーセンターの先駆企業だった「オサダ」（写真の店舗は2013年2月閉店）。生活必需品に加え、高級ブランド品やカー用品・ゴルフ用品など余暇商品を取り扱う超大型店の展開に強みがあったが、2000年7月に民事再生法申請。トライアルが小倉・飯塚・直方・筑後といった主力店を引き継ぎ、成長の原動力とした

ディスカウントコンビニトライアル天神3丁目店（2012年6月閉店）。標準店と同等の低価格と店内厨房「ポケットデリ」を備え福岡都市圏で多店舗化を図ったが、コンビニ大手との競合や店舗標準化を背景に全面撤退した

　2005年12月には100円以下の商品に特化した新業態1号店「トライアル百下店松島店」を開店。2006年4月には都市型新業態「トライアルディスカウントコンビニ」に刷新し、同社本拠の福岡市街地に多店舗を展開した。

　キャッチコピー「トライアルならまだ買える」「ずっと、ず〜っと、低価格。」を掲げたテレビCMを積極放映し、自社PB「LOCK ON」を中心とした低価格商品の拡販を図った。

西友サニー春日公園店を居抜きしたトライウェル春日公園店（現TRIAL GO春日公園店）。生鮮は福岡県内の白鳥プロセスセンター、惣菜は同じく県内の旗艦店新宮店より供給を受ける小商圏フード&ドラッグ業態で現在のGO業態の先駆けとなった

ディスカウントの深耕図った西友

　西友もトライアルの躍進と同時期、2002年3月にウォルマートと包括的業務提携を締結し、世界的な仕入調達網を生かしたPBの取り扱いを開始。2003年3月開店の西友佐賀巨勢店を皮切りに、ウォルマート直営店に準じた売り場や販促、システムを順次導入していくこととなった。

　さらに同社は2008年4月のウォルマートによる完全子会社化にあわせ、同年7月に地域法人を吸収合併するなど組織効率化を推進。「他店チラシと同額保証」サービスによる近隣競合店特売対策をしつつ、従来のチラシ主体から流行語由来の「KY」（カカクヤスク）を始めとするEDLP（毎日低価格）主体の販促に本格移行した。

　加えて、旧西武セゾン末期に立ち上げた新生活百貨店業態「LIVIN」やモール業態「THE MALL」に関しても、高級衣料や銘店、専門店街を大幅縮小したうえで直営化するなど、旧西武セゾン色の一掃とディスカウントの深耕を図った。

　日本版ウォルマートを目指したトライアルと、ウォルマート日本法人だった西友の組み合せは必然といえるのだ。

ウォルマート提携後初の新規出店だった「西友佐賀巨勢店」（2010年10月閉店）。双日系商業施設「モラージュ佐賀」の核店舗、ディスカウント大手「MrMax」とともに進出予定だった百貨店が事業から撤退したことで、ディスカウント2核1モールという珍しい施設として開業した

　低価格路線を歩んだ両社はその後、ブランドイメージの再構築を図るため、高付加価値PB（プライベートブランド）の開発とIT強化を目指すことになる。後編では、PB開発やAI活用で独自性を確立していく両社の歩みと、トライアル傘下入りで西友がどう変わっていくのかを深掘りする。

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