この記事は、『最高の自走型チームの作り方』(梅原千草著、かんき出版)に掲載された内容に、かんき出版による加筆と、ITmedia ビジネスオンラインによる編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
チームメンバーが自ら考え、行動するにはどうすればいいのだろうか。テーマパークのUSJは、「We are USJ」という4つの思考軸を使って自走するチームをつくり、困難な状況からV字回復を果たした。USJで人材育成に貢献した梅原千草氏が執筆した『最高の自走型チームの作り方』より、「We are USJ」とはどのような思考法か、そして実践するとチームにどのような効果があるのか解説する。
自走は、自ら考えることから始まります。「私は何を求められているのか」「私は何ができるのか」を考えることにより、「私は何をするか」と行動を起こすことへ視点が向くからです。
そのため、自走を実現するには、行動を起こす思考力が必要です。変化が大きく、答えのない時代だからこそ、この思考力がより求められるようになりました。
2020年度に改定された文部科学省が定めている学習指導要領には、育成すべき資質・能力として3つの軸が示され、その1つが「理解していることをどう使うか(思考力、判断力、表現力)」とされています。この新学習指導要領が発表された際に、このように書かれていました。
「グローバル化や人工知能・AIなどの技術革新が急速に進み、予測困難なこれからの時代。子どもたちには自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、自ら判断して行動し、よりよい社会や人生を切り拓いていく力が求められます」
子どもの頃からこのような視点での学びが必要とされている時代なのです。
リーダーがどのような考え方をし、どのような行動につなげていくかがチームの自走に影響します。
USJには、社員の採用基準や教育の軸として「We are USJ」というキーワードがありました。「U :Unique」「S :Smile & Smart」「J :Joyful」の頭文字を取って、「USJ」です。
まさに、行動を起こすために必要な考え方が凝縮されているキーワードです。
常識や当たり前を超えて、新しいものを生み出す力です。
常識は、一つの見方であり、それだけが正解ではないはずです。でも、どうしても人は自分の常識に当てはめて考えます。また、他者や社会からの当たり前という枠にはめられて考えることが多くなります。
例えば、新卒採用時には「USJのメインキャラクターは何ですか?」とよく学生に聞かれたものです。なぜそのような質問が来るのかというと、「ディズニーにはミッキーマウスがいるから」です。当時は、ある辞書に「テーマパークとは、ディズニーランドのようなもの」と書かれているような時代のため、ディズニーランドと違うことをすると「おかしい」と言われることが多くありました。
質問をしてくれた学生に「テーマパークには、メインキャラクターが必要だと思いますか?」と問いかけてみました。そうすると考え始めます。「なぜ必要だと思いますか?」「USJにいないのはなぜだと思いますか?」とさらに問いかけていくと、これまで自分が当たり前だと思っていたことに疑問が生まれ始めます。
そこに正解はありませんし、正解へ導く必要もありません。大事にしてほしかったのは、「その当たり前は誰の当たり前?」ということです。
その常識は誰が決めたものなのか、その常識以外はおかしいことなのかと疑問を持ち、「なぜ、そうなっているのか?」を考えることで、物の見方に選択肢が生まれます。「なぜ?」から始まり、「だから?」と考えていくことで、新しい挑戦ができるのです。
自分も周囲もポジティブにする笑顔の力です。
笑顔は、不安を吹き飛ばし、困難な壁を乗り越える勇気をくれます。ポジティブなエネルギーで周囲を巻き込んでいく力を持つものです。
自分の感情をそのまま表情に出すことは簡単です。でも、その結果、相手を不快にさせ、不安を抱かせることがあります。リーダーがネガティブな感情を表情に出せば、メンバーはコミュニケーションを取ることを躊躇(ちゅうちょ)し、接することすら避けてしまうかもしれません。
今自分が何をすればいいのかを考え、自分の表情をコントロールすることも必要なのです。
目の前のゲストにいい時間を過ごしてもらうために、笑顔という要素は不可欠です。上司へ提案をするとき、メンバーへアドバイスをするとき、チームで会議をするとき、どんなときも表情1つで相手に与える印象が変わり、結果も左右されます。
笑顔は伝播しますので、リーダーが笑顔でいることで、メンバーも笑顔になり、チーム内の心理的安全性が確保され、チームの自走力へとつながります。
目的達成に向けて、できないことを探すのではなく、できることへ目を向ける力です。
働く上で、制約はつきものです。人が足りない、予算がない、時間がない、はよくある状況です。上司がサポートしてくれない、メンバーが自分で考えて動かないといった他者に依存する課題もあります。
そんなときに、「〇〇がないからできない」「〇〇してくれないから無理」と考えても、何も解決しません。それどころか、一向に状況が改善されないことでストレスが溜まります。
変えられないものに目を向けるのではなく、変えられるもの、自分が影響を及ぼせるものに目を向けることが大事です。変えられるものの代表は、今の自分です。今の自分の考え方を「予算がないからできない」ではなく、「予算をもらうには私はどうすればいいか」「限られた予算内で私にできることは何か」と考えることで、工夫の余地が生まれます。工夫することで、未来の自分を取り巻く環境はよくなっている可能性があります。
できない理由を探すよりも、できることを考えるほうがワクワクします。制約の中で、自分にできることは小さな一歩かもしれません。でも、他人や環境のせいにするのではなく、自分に目を向けることができれば、目的達成へ向けて必ず前進します。
仕事をおもしろくする力です。
何をもって「おもしろい」と感じるかは個々で違いますが、どうせ働くならば「おもしろい」と感じられるほうが、モチベーションも上がり、自ら進んで言動することにつながります。
もちろん、仕事は必ずしも「おもしろい」ものではないかもしれません。でも、「おもしろくする」ことはできます。目の前のことをどう捉えるかは自分次第だからです。
どうせやらなければならないのであれば「どうすればおもしろくなるか?」と考えましょう。面倒だと思うことや苦手なこと、自分が納得できないことを行うとき、楽しめる要素を見つけることができれば取り組む姿勢が変わり、結果も変わります。いい結果が出るとさらにおもしろくなります。
どんな仕事もおもしろくできる人は最強です。だって、いつでもどこでも自分の意志で前に進めていけるのだから。
これが「USJ」です。
今多くの組織で人材育成に携わる中で、この「USJ」というキーワードは、リーダーが自走型チームを作るうえで大事な考え方だと実感しています。
「USJ」の4つの要素に共通しているのは、物事をどのように捉えるかによって、思考の働きが変わり、結果が変わるということです。
大事なのは、「多角的に物事を捉える」という思考です。
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