この記事は、『最高の自走型チームの作り方』(梅原千草著、かんき出版)に掲載された内容に、かんき出版による加筆と、ITmedia ビジネスオンラインによる編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
チームメンバーの強みを、あなたはすぐに言えるだろうか。USJのV字回復期を支える人材育成を担った梅原千草氏は、自分の強みを認識しメンバーの強みを理解することが、チームの連携につながると言う。梅原氏が執筆した『最高の自走型チームの作り方』より、チームリーダーとして自己理解と他者理解を深める方法について解説する。
チームを作るには、メンバーを理解すること、つまり他者理解が必要です。そして、他者を理解するためには、まずは自己理解ができていることが前提です。
マネジメントの祖とも言われるピーター・ドラッカーは、「知識経済での成功は、自分の強み、価値観、そしてどのようにして最高のパフォーマンスを発揮するか、自分自身を知ることができる人にもたらされる」と言っています。自分の強み、弱みを客観視できたなら、感情や言動をコントロールしやすくなり、自分の言動が他者にどのように影響するかを考えられるようになります。その結果、他者を理解、受容し、他者との接し方を工夫することができます。
ただ自分のことを理解するのは、大変難しいことです。
自分のことは分かっていると考える人が多く、改めて自分を意識的に見ようとしない傾向があります。理解の前に、認識ができていないのです。
組織心理学者のターシャ・ユーリックは、著書『Insight』(英治出版)で、「自己認識ができていると思っている人は95%いるが、実際にできているのは10〜15%であった」という調査結果を述べています。
私はUSJ時代に、自分のことを「なんとなく」分かっているつもりでいた、と気付く機会がありました。
ユニバーサル・アカデミー(※1)のプログラムの1つに、当時の社長を講師とした「ガンペル・アカデミー」がありました。希望者の中から選考された数名の社員が、約半年間かけて社長と議論し、経営者視点を学ぶのですが、そのプログラムの初回に、社長が必ず出す問いがありました。それが「Who are you?」です。
※1:ユニバーサル・アカデミー:USJ独自の社内教育の仕組み。リーダーに必要な知識やスキルを提供する研修機会を設けている。
「Who are you?」は、自己紹介を促す問いです。
「Who are you?」と問われると、「営業部で西日本地域の旅行代理店を中心に営業をしています。入社して5年目です」というような、所属や仕事内容から話を始める人がほとんどです。あなたも自己紹介といえば、このような回答をイメージするのではないでしょうか。
すると社長は、話し始めた社員の言葉を聞きながら、「Who are you?」と聞き直します。社員が改めて経歴や仕事内容を話し始めると、また「Who are you?」。もう緊張で頭がパニックになりますね(笑)。
「あなたは誰なのか?」という問いは、「あなた自身」を深く知るための問いです。会社や肩書、職歴も「あなた」を構成している要素ですが、それだけではなく、あなたは、どんな考えや価値観を持っているのか。なぜUSJで働いていて、何を成し遂げたいのか。どんな人生を歩んできて、これからどんな人生を歩みたいのか。そして、今回のガンペル・アカデミーは、あなたにどのような影響を与えることができるのかを問うていたのです。
最初はみんな同じように、何度も「Who are you?」を繰り返され、頭が真っ白になりました。他の人が何度も繰り返されているのを見て、頭では理解していても、いざ自分の番になると、自分の外側にある情報しか出てこないのです。
私は、多くの参加者が何度も問いかけられてようやくたどり着いた「あなた自身」の答えを聞き、衝撃を受けることが多々ありました。学生時代の挑戦、親との確執、海外生活での挫折、USJで本当は何がやりたいのか、自分が一番大事にしていること、定年後の夢などが語られました。私がよく知っている参加者からも、初めて聞く話が次々と出てきました。
そして、それらの経験や考え方が、今の自分にどのように影響しているのかを社長はさらに掘り下げていきます。問いかけられ、答えているうちに、「自分は一体何者なのだろう」「何がしたいのだろう」と参加者が頭をフル回転させているのが伝わってきました。
社長は、話している参加者に、「今の話をしているときの表情が自信に満ちているね」「その話はあなたが成長することにつながったように見える」と印象を伝えながら、対話を進めていました。
また、他の参加者も巻き込み、どう見えたか、普段とのギャップがあるかと問いながら、参加者間の対話も促していました。私はその様子を見て、他者視点が加わることで、さらに自己認識が深まっていくことを実感しました。
「Who are you?」という問いは、まさに、自己認識を促す問いであり、「リーダーが自分を知る」ことの必要性を実感する機会となりました。
先述したターシャ・ユーリックは、自己認識には、「内面的自己認識」と「外面的自己認識」の2つの側面があり、その両方に取り組む必要があると提唱しています。
「内面的自己認識」とは、自分の価値観や情熱、願望についての内省的な理解を意味します。一方、「外面的自己認識」とは、他者から自分がどう見えているかに対する理解です。そして、この2つの側面をバランスよく認識できることが、いいビジネスリーダーと説いています。
自己認識力を高めることは、自分を動かす原動力になります。そして、内省する力や物事を俯瞰(ふかん)で見る力、他者から自分はどう見えているのかという他者視点への意識が高まります。自分自身の行動や思考を深く洞察することが、他者との関係構築や業務遂行に活用する能力につながるのです。
リーダーが自分を知り、自分を理解することがチーム作りの第一歩です。
自分を知るためのフレームワークとして「Will・Can・Must」があります。これを使って自己認識、自己理解へつなげてください。
仕事のモチベーションになるもの・やりがいを感じるもの
自分の強み・自分のいいところ
自分の役割・周囲や社会のニーズ
この3要素が重なる部分が大きいほど、モチベーションの維持ややりがいにつながり、自分を動かす力となります。
それぞれの要素を考え、書き出してみましょう。大事なポイントは「可視化」です。
頭の中で考えているだけでは、明確に認識ができません。文字に起こし、視覚でも認識することが効果的です。頭の中で思い描くだけでなく、書き出すことで客観視し、深く自分を知る機会としてください。
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