AI時代、事業が変われば組織も変わる。新規事業創出に伴う人材再配置やスキルベース組織への転換、全社でのAI活用の浸透など、DX推進を成功に導くために、組織・人材戦略や仕組みづくりはますます重要になる。DX推進や組織変革を支援してきたGrowNexus小出翔氏が、変革を加速させるカギを探る。
「生成AIが、既存のホワイトカラー業務を一変させる」──この1年ほどで、これまでにない速度で現実化しつつあるテーマです。国内外の企業が相次いで、社内業務の効率化や新規事業開発への生成AI活用を進めています。
例えば、DeNAが大々的に表明した「AIにオールイン」戦略。「既存事業を半分の人員で成長させる」この計画は、単なる人員削減ではなく、余剰人材を新たなヘルスケアやAIプラットフォーム事業などに再配置することに主眼があります。
また清水建設では、建設現場での安全管理AIを自社導入するだけでなく外部販売し、新たな収益源として急成長させています。海外を見れば、米Intuitや米Dropbox、米IBM、スウェーデンのKlarnaといった企業が、AIへの大規模投資や人員入れ替えを進めていると報じられます。
いずれのケースでも「AIを導入し、浮いたリソースをどこに再投下するか」が経営の大きな分岐点になっているといえるでしょう。
本稿では、以下の3つの観点に沿って「AIシフト時代の事業運営と人材マネジメントの要諦」を整理します。
生成AIの急激な普及は企業の競争力を左右する大きな波です。これを「コストカットの手段」にとどめるか、それとも「新たな成長ドライバー」に仕立てられるのかが、今後の企業存続を分けるといっても過言ではありません。
ゲームやエンタメ、スポーツ関連など幅広い事業を展開するDeNAは、2025年を「第2の創業」と位置付けて「AIにオールインする」戦略を社内外に宣言しました。
経営トップの南場智子氏(代表取締役会長)は「約3000人で運営している事業を、AI活用により半分の人員でも成長させる」と具体的な目標を掲げています(※1)。
(※1)出所:フルスイング by DeNA「DeNA南場智子が語る『AI時代の会社経営と成長戦略』全文書き起こし」
一見すると大幅な人員削減を連想しがちですが、DeNAの場合は、AIで省力化した分の人材を新規事業や新領域のサービス開発へ再配置する方針に特徴があります。
例えば同社は医療・ヘルスケア領域への取り組みを強化しており、健康管理アプリや予防医療のプラットフォーム構築などに本腰を入れています。
また2024年には、社内で培ったAIノウハウを外部に提供する新会社「DeNA AI Link」を設立。マーケティングやクリエイティブ、営業支援など幅広い領域でAIを活用してきた社内事例をソリューション化して、他企業のDXをサポートする狙いです。
DeNAの戦略が興味深いのは、AI導入前に「人材シフト後の姿」を明確化している点です。既存のゲーム事業などを半分の人数で効率運営する一方、その浮いた人数は「新規事業」に投下する。当初からAI導入の目的を「人材の創造的転用」に設定していることが、単なるコスト削減で終わらない好例と言えるでしょう。
建設業界大手の清水建設では、長年課題となっていた「重機と作業員の接触事故」をAIで防止するプロジェクトを推進しています。重機にステレオカメラを搭載し、作業員の動きをリアルタイムで解析することで危険が生じた際に自動で警告を発する仕組みです。
2023年以降、現場の作業効率や安全性が大幅に向上し、事故リスクが低減しただけでなく、従来は人手をかけていた安全監視を省力化できました。
さらに注目すべきは、この安全管理AIシステムを社外に販売し始めた点です(※2)。他の建設会社や関連企業へ外販して新たな収益源を得ると同時に、業界全体の安全水準を底上げするという社会的意義も獲得しました。
(※2)出所:清水建設Webサイト「車両搭載型AI監視カメラシステム「カワセミ」を商品化」
こうして生まれた収益をさらに次のAI開発へ再投資し、また一部の人員を研究開発部門へ振り向けることで、“業務DXから新規事業創出”へとつなぐ好循環を生み出しています。
企業による相次ぐ「AI導入+人材シフト」現象を俯瞰(ふかん)すると、AIの活用が進むほど、人間が担うべき仕事は相対的に上位のクリエイティブ・戦略的な領域へ押し上げられることが分かります。
いわゆる「Excel集計やレポート作成に関する実務」「企画書文面をたたき台から書き上げる」といった実務作業が、そっくりそのままAIに代替されるケースが急増しているのです。
では、人間には何が残るのか。多くの専門家が指摘しているように、以下の3つが大きな柱となります。
検索や表計算ができないビジネスパーソンは、これまでの知識労働では活躍が難しかったように、今後はプロンプト設計と出力検証が「新たな読み書き算」として必須スキルになります。例えば新人の段階でも、
といったプロセスを日常的に回す必要があります。
従来の「まずは書類作成をやってみろ、先輩が赤入れするから」というOJTスタイルが、「AIに下書きを作らせ、上司が全体構成や根拠不足をチェックし、追加プロンプトで即修正」といった新しい形に変わるでしょう。
AIに任せられるところを任せ、足りない要素をいかに人間側が見抜いて指示を出すかが問われるわけです。
AIは与えられた問いに対しては驚くほど素早く答えてくれますが、「そもそも何を問い、どんな視点で解決策を探るべきか」を決めるのは人間です。
この状態を作るために、人間には下記が求められます。
「AIがあれば現場を見なくてもよい」と思うかもしれませんが、実際には「現場感のない問い」を立ててもAIは浅い回答しか返しません。
顧客とのコミュニケーションや、課題の所在となる関係者との接点を通じ、AIを活用して情報の壁打ちをし、アイデアを練るという流れが理想的です。
生成AIが企画書や提案内容を一瞬で生成してくれるようになっても、利害関係者をどう説得し、合意形成をとり、実際にプロジェクトを動かすかは依然として人間のリーダーシップ領域です。
具体的には、
が欠かせません。
オンライン会議が増えた現在だからこそ、対面での合意形成を学ぶために出社やリアルミーティングを活用するという発想もあります。
こうした「熱と空気」を伴うコミュニケーションは当面AIに代替されにくく、むしろ人間に残された重要なコア領域と言えます。
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