株式会社スタジオ02 代表取締役。横浜銀行勤務時代、全銀協へ出向した際はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。06年に支店長職をひと区切りに退社、現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーとともに情報通企業アナリストとして活動している。
フジテレビは、自社に所属していた女性社員が出演タレントから性暴力を受けたとされる件への対応について、第三者委員会の調査報告を受け、4月末までに改革案と親会社フジ・メディア・ホールディングス(HD)を含めた役員人事を発表しました。企業不祥事研究者の立場から筆者が考える改革案および役員人事への評価と、改革案に残る課題点についてまとめてみます。
フジテレビが第三者委員会の調査報告書を受けて公表したのは「フジテレビの再生・改革に向けた8つの具体的強化策及び進捗状況」と題した改革への具体的な取り組み方針でした。方針は大きく「人権・コンプライアンス意識向上・体制強化」と「ガバナンス改革・組織改革」の2つの領域に区分けされています。
「人権・コンプライアンス意識向上・体制強化」では、「(1)人権ファースト(表現は筆者が要約。以下項目も同様)」「(2)人権・ハラスメント被害者保護」「(3)コンプライアンス違反処分の厳正化」「(4)リスク削減の仕組みづくり」の4項目を掲げています。しかしながら、(1)〜(3)は内容的に上場企業としては今さら感が強すぎる改革策のオンパレードであり、逆にここまで基本的な人権擁護体制、コンプライアンス体制ができてなかったのかと、あらためてその組織管理のずさんさが明らかになったといえます。
(4)に関しても同様ではありますが、一般的な大手企業においてはバブル経済崩壊後の金融危機などを契機として、四半世紀ほど前からリスク管理部門を設置しており、あらゆるリスクを管理し事前察知できる体制が確立されています。さらに、可能なものは計量化することで日常的にそのリスクの軽減を狙う、といった対応がとられています。2025年段階で初めて、「リスク評価・対応チーム」やら「リスク対応コントロールセンター」を設置するというのは、驚きに近いほどの時代錯誤感を禁じ得ません。
これらを総合して言えることは、同社がこれまでいかに一般社会から乖離(かいり)した独自の常識の下でビジネスをしてきたのかということの現れであり、この事実をしっかり自覚した上で、形式整備に終わらない魂の入った改革を実行しなくてはいけない、ということでしょう。また、この実態が果たしてフジテレビ特有の異常さであるのか、それともテレビ業界共通の文化であるのか、個人的にはこの事象とは別に気になった次第です。他局も本件を他山の石として、自社の組織風土を再確認する機会とするべきであると思います。
窮地のフジテレビ、どうすれば良かったのか 分岐点は「初動」にあった
なぜフジテレビは失敗し、アイリスオーヤマは成功したのか 危機対応で見えた「会社の本性」Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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