1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
2024年、倒産件数で最も多かった業種は「経営コンサルタント」(154件)であった。東京商工リサーチの集計によれば、経営コンサルタント業の倒産は2005年の集計開始以来で最大規模であるという。
さらには、この苦境に追い打ちをかけるような事態も起きている。
このコンサル業界に追い打ちをかけるように、6月6日には行政書士法の改正案が国会審議を通過し、成立した。同法に規定されていた「補助金申請支援業務」について「報酬を得ていかなる名目によるかを問わず」との文言が加わる。
これにより、2026年1月1日以降における補助金申請は実質的に行政書士の独占業務であることが明文化されたことになる。それまでは、行政書士の資格を持たない経営コンサルタントによる補助金申請代行もグレーな領域として存在していたが、今後は一切認められなくなる可能性が高い。
無資格者の資格取得推進や有資格者の登用など、構造的な転換が急務となる。そのような体力を持ち合わせていない経営コンサルタント企業にとっては廃業のリスクが一気に上がったというべきだろう。
実際、ものづくり補助金や事業再構築補助金といった各種支援制度では、採択後の手続きに煩雑な書類作成が伴う。これまで、これらを「コンサルティング」と称して代行し、数十万円から数百万円、規模によっては1つの案件で1000万円を超える規模の手数料を受け取る業者も存在していた。
補助金の申請コンサルティングは、やり方がある程度固まれば、書類の内容も定形化でき、労力を抑えて多額の手数料報酬を受け取ることも可能なビジネスモデルである。
コロナ禍の持続化補助金に端を発する「補助金バブル」によって、雨後のタケノコのように増加したコンサル業者。その中には、手数料目的での過剰申請や、事実と異なる内容での記載、採択後の放置など、申請制度の信頼性を損なう悪質な事例が数多く確認されていた。
法改正の大きな要因となったのが「IT導入補助金」の不正受給問題だろう。会計検査院は2024年10月、国のIT導入補助金事業において2020〜2022年度に計1億4755万円の不正受給があったと公表した。
対象は約10万社のうちわずか376社を抽出した445案件で、このうち30社の41件が不正と認定されている。全体の3%を抽出しただけで30社もの不正受給が明らかになるということは、バレていないだけで数百社もの企業が不正受給した可能性すらある。
不正と認定された企業の中には、不正と知らずに申請をした事業者も含まれていた。
申請支援を担ったコンサル会社や販売代理店が、実態のない「形式的な導入支援」を行っていたことも指摘されている。手数料収入を得る目的で乱雑な申請や水増しが横行し、結果として補助金制度そのものの信用にまで響いたのだ。補助金の支援機関による責任は重い。
行政書士法の改正は、こうした事態への対応として、申請支援の業務主体に法的資格を求め、責任の所在を明確化する狙いがあるといえる。
一部の事業者は、報酬名目を「事業計画支援料」や「相談料」と変えることで対応を試みている。しかし、改正法は「いかなる名目によるかを問わず」と記述しており、実質的に補助金申請書を作成していれば処分対象となる可能性が高い。業務の実態そのものが問われるのだ。今後、行政側が監視体制を強化すれば、摘発事例が増加する懸念もある。
コンサル業界内では「どこまでが違法なのか」の解釈を巡り混乱も起きているが、少なくとも「クライアントの代わりに書類を作成する行為」自体は禁止と理解すべきだろう。
ビジネスモデルを刷新するため、行政書士法人との連携を模索する動きも出ている。具体的には、コンサルタントがヒアリングや事業計画の設計を担い、その情報を基に行政書士が書類を作成するといった分業モデルだ。
こうしたビジネスモデルであれば、行政書士法を順守しつつ、企業への包括的支援を提供できる。行政書士にとっても、申請制度への知見が浅いケースも多く、現場密着型のコンサルとの協業は補完関係となり得る。
今後は、単なる個人事業者による“ワンオペ型支援”から、複数の専門職によるチーム体制への移行が、支援サービスの新たな標準となる可能性もある。
過去最多の廃業が報じられた際、SNS上では「自分たちが経営コンサルタントを受けてもらうべき」といった皮肉混じりの声も散見された。
しかし、国の制度いかんによって突如ビジネスモデルが崩壊し得る補助金を対象にしたコンサル業の経営は、不確実性も難易度も高い。安易に嘲笑するのはかがなものかと筆者は考える。
経営コンサル業を巡る環境については、制度的にも市場的にも、「本物」と「見せかけ」の選別が進みつつある。今回の法改正は、業界全体の転機となるだろう。
書類を作るだけのコンサルは淘汰される一方で、ビジネスモデルを柔軟に刷新し、企業の伴走者として経営の深部に入り込める支援者は、むしろその価値を再評価されるはずだ。
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