オリエンタルランド「株価暴落」の謎 最高益なのに、なぜ?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」

» 2025年05月02日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


 東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが4月26日、「創業65周年記念株主優待」の実施を発表した。

 内容は、9月30日時点で100株以上を保有する株主に対し、東京ディズニーリゾートの1デーパスポートを追加で贈呈するというものだ。

 一見すれば、節目を祝う株主への好意的な配慮に思える。だが、この「記念優待」は、苦しい経営の現実と市場の期待剥落を受けた防衛策とも受け取れる。

株価はピークから半値近くまで下落……その理由

photo 同社Webサイトより

 オリエンタルランドの株価は2012年ごろから右肩上がりを続け、そこから10年で株価が10倍になった。いかなる局面においても上昇を続けるオリエンタルランド株は一種の“値上がり神話”に支えられてきた。

photo 出典:Tradingview 上場来 月足チャート

 しかし、2024年からその神話に暗雲が立ち込める。

photo 出典:Tradingview 2024年からの日足チャート

 円安による原材料費や人件費の高騰、来園者の消費行動の鈍化など複合的な要因で成長が鈍化し、株価は下落基調に入った。2025年4月末時点では3000円と、ピーク比で48%も株価が下落している。

 背景には、相次ぐ値上げに消費者がついてこられなくなってきたという事情もありそうだ。コロナ禍以降、オリエンタルランドは東京ディズニーランドおよびシーの1デーパスポート価格を段階的に引き上げ、最大で1万900円という過去最高額を設定した。

 チケット以外のフードメニューなども値上げされ、人数の多い家族連れにとっては1日当たり数万円も出費が増えることも珍しくなくなった。

最高益見込みなのになぜ株価は下がる?

 そんな中、オリエンタルランドの2025年度業績予想は、営業利益1700億円台、純利益1210億円超と、最高益を更新する見込みだ。

 新エリア「ファンタジースプリングス」が開業し、インバウンド需要の回復も追い風である。しかし、こうした数字の裏に一抹の疲労感が浮き彫りになっていることが株価下落の要因なのかもしれない。

 根拠としては、収益性向上の原動力が値上げと単価アップに偏っている点であろう。両テーマパークの入園者数は増加しているものの、滞在時間やパーク内消費は横ばいで、客層が変化している可能性がある。

 つまり「高価格帯でも訪れる熱心なファン」には依然強いが、いわゆる「ライト層」やファミリー層の回遊性が落ちている可能性がある。

photo 出典:オリエンタルランド入園者数データ(同社Webサイトより)

 2024年度の入場者数は両園合計で2755万人と、前年並みとなった。ちなみに、コロナ前までは2900万人から3000万人来場していたため、入場者数は減っているのに過去最高益を更新するという状態になっている。

 鍵を握るのが「ゲスト1人当たり売上高」だろう。同社公式サイトによれば、2020年以降、1人当たりの売上高が大幅に上昇している様子がうかがえる。

photo 出典:オリエンタルランドゲストプロフィール(同社Webサイトより)

 入園者数が頭打ちになる中で、値上げによって1人当たりの支払い金額が増えるという形で業績が成長するようになったという収益構造の変化を市場は読み取っているのではないだろうか。

エンゲル係数の上昇、娯楽が“贅沢品”に

 家計としても、相次ぐ生活コストの高まりや実質賃金の低下をうけ、テーマパーク消費を抑制せざるを得ないという事情もある。総務省「家計調査報告(家計収支編)2024年」によれば、国内ののエンゲル係数(消費支出に占める食費の割合)は30%を超える月も目立った。

 当然ながら、娯楽・外食・旅行といった「選択的支出」は真っ先に削減対象になる。

 実際、総務省が公表している家計調査でも「娯楽サービス」への支出は2023年をピークに再び減少傾向に転じている。旅行需要は回復基調だが、その手法としてもLCCや安価な体験消費にシフトしている様子がうかがえる。

 また、これまでの成長戦略のもう一つの柱であった「インバウンド需要」の取り込みも直近の円高が重荷となる。世界的に厳しいインフレが進行する中、国内でも海外でも「もう一段の値上げは受け入れられない」という心理的上限が見えてきているのだ。

株主優待という“クッション材”

 株主優待は、配当とは異なり非現金で提供できる分、財務的インパクトを抑えながら株主満足度を維持する手段として用いられる。通常の優待は500株以上保有(長期保有の場合は100株以上)が原則で、株価が上がった現在ではややハードルが高い条件だった。

 今回の記念優待は、9月30日時点で100株以上を保有していれば受け取れる。短期的な既存株主の流出を防ぎ、今後の施策にも期待を持たせることで中長期の株主層を厚くする目的があると考えられる。

 また、オリエンタルランドのような一般消費者向けビジネスを主体とする銘柄は、「株主=顧客」という関係が極めて強い。株主優待は、株主をパークに呼び戻し、再びファン化・消費促進へとつなげる目的でも活用される。

 オリエンタルランドはこれまで、テーマパークのブランド力と徹底した品質管理により、個人株主やファンを共感でつなぐサービスの理想像として語られてきた。しかし近年の動きは、理想像の揺らぎを象徴する。

 65周年のタイミングで、記念優待を導入したオリエンタルランド。“65”という中途半端にも思われる年を記念する様子からは、同社の焦りもうかがえる。

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