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人とテクノロジーの融合でシナジー創出 ドコモ・ファイナンス「BPOセンター」の戦略は?

» 2025年06月27日 08時00分 公開
[篠原成己ITmedia]

 企業と顧客をつなぐコンタクトチャネルとして、重要な役割を果たすコンタクトセンター。開設・維持コストが高く、人手不足も起きやすいため、運営面での負担などには課題がある。

 NTTドコモの金融中核会社ドコモ・ファイナンスが立ち上げたBPOセンターは、NTTドコモが提供するスマホ完結型のローンサービス「dスマホローン」に関わるコンタクトセンターの業務を請け負った。今後もより効率的な業務運営を目指し、ドコモグループでのシナジーを促進しようとしている。

 生成AIを活用した業務の効率化も進む中、コンタクトセンターの現場で起こるリアルな課題や、次世代コンタクトセンターの構想をBPOセンター長の島田明典氏に聞いた。

ドコモ・ファイナンス BPOセンター長の島田明典(しまだ・あきのり)氏

ドコモグループ入り どんなシナジーが生まれた?

 ドコモ・ファイナンスは、1979年に個人の顧客へ向けた金融サービスを提供する総合信販会社としてスタートした。時代の変化や顧客のニーズに応えることで、ローン事業、信用保証事業、住宅ローンを専門に取り扱うモーゲージバンク事業と、事業を拡大している。

 同社が顧客と接する中でノウハウを蓄積してきたのがBPOセンターだ。BPOとはBusiness Process Outsourcingの略である。

 BPOと似た概念として、アウトソージングがある。アウトソーシングは業務の一部を外部企業に委託する方法であり、コールセンター業務であれば、電話の一次対応やサービスの受注処理のみを指す。一方BPOでは電話応対だけでなく、顧客データの管理やフィードバックの分析・戦略的な提案に至るまで、専門的な知識やスキルの活用による高品質なサービスを提供する。

 2024年3月、ドコモ・ファイナンスの前身であるオリックス・クレジットが、NTTドコモの連結子会社となった。これを受け、ドコモ・ファイナンスがこれまで培ってきたファイナンスのノウハウと、ドコモグループの有するデジタルチャネルやマーケティング基盤を結集した。BPOセンターを始めとするオペレーションの内製化、商品ラインアップの拡充といった戦略的狙いがある。NTTドコモのブランドを生かすことによって、これまでアプローチできなかった顧客層へのリーチが可能となったという。

 ドコモ・ファイナンスのBPOセンターの業務は、大きく3つに分類される。

(1)インバウンド業務

 ローンに関する申し込み操作や返済相談、本人確認、不正利用の確認といった顧客からの問い合わせ対応業務。

(2)アウトバウンド業務

 契約済みの顧客に対するフォローコールや利用促進を提案する業務。システムが自動で複数の顧客に電話をかけ、つながった通話だけをオペレーターに接続する「プレディクティブコール」や、顧客の操作に応じて事前に用意した音声で自動応答する「音声自動応答」(IVR)を用いた自動発信により、オペレーターの稼働効率を最大化。特に「増額提案」は顧客の反応率も高いという。

(3)審査業務

 顧客の収入情報の確認など、貸金業法で定められた与信審査業務。顧客にさまざまなパターンの収入証明書類の提出を求める場面も多く、高度な知見が必要とされる。ドコモ・ファイナンスは旧オリックス・クレジット由来の知見をベースにナレッジを体系化した。

 以上の3つの中で、特に注目すべきは、プレディクティブコールやIVRオートコールの活用による業務最適化だ。

 オペレーターが手動で電話をかける従来型のスタイルに加え、システムによる発信制御を導入することによって、オペレーター業務の負荷を軽減している。将来的には、音声認識と生成AIの活用によるIVR差配を組み合わせ、顧客の発話意図を自動的に解釈して応答するような仕組みも導入していきたいという。その狙いについて島田氏は「単なる効率化ではなく、最大の目的は、最終的にお客さまのdスマホローンに対する満足度を高めていくこと」と強調する。

ITは目的でなく手段 現場の声から改善していく

 従来型の企業では、IT部門が導入したシステムを、現場に適応させるモデルも少なくなかった。一方、dスマホローンのシステムでは、あくまで現場の課題を解決するためにシステムを導入し、業務を改善していくフローを整えているという。

 同社の現場では、まずオペレーターが業務中に気付いた改善点を、直接マネジメントに伝える。すると、その声を即座にシステム部門へフィードバックする体制を整えているという。これまで現場発の改善項目が300件以上も提案され、その多くがシステム改善に反映されてきたと明かす。

 例えば、本人確認業務では、免許証など本人確認書類の画像を確認する。この確認作業で、事務処理を効率的かつ不備なく完了させるために、(画面上でアイコンやボタンなどの視覚的な要素を使って操作できる)GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の改善を積み重ね、業務の質を向上させてきたという。

 カスタマーハラスメント(カスハラ)に対する明確な対応、ガイドラインも整備。オペレーターが安心して長く働ける環境づくりを進めている。

 今後は、ドコモグループの他の金融商品のオペレーション業務の受託も視野に、組織の拡大も見据えているという。その背景には、島田氏の「できることから着手し、構想を現実にする」という思いがある。

 「座右の銘は着眼大局、着手小局です。大局的な視点で構想を持ちながら、まずはできることからやってみる。例えば、生成AIを使ってオペレーションの完全自動化を進めるという構想を持ちつつ、まずはIVRオートコールの導入など、その第一歩となる取り組みを着実に実行する。目の前の課題に、きちんと取り組んでいくことを常に心掛け、積み重ねていますね」

 コールセンター業務の現場では、マニュアル通りの対応以上に、顧客の背景や感情を読み取る力が求められる。島田氏によれば「返済額の確認の裏に、資金繰りの悩みなどが潜んでいることもある」という。その予兆を的確に捉え、顧客へ提案するのは、今も変わらず人の役割だ。

 コールセンター業界全体で人材確保が困難な中、自動化による負担軽減は必須になってきた。だが、システム導入はあくまで業務改善の手段でしかない。ドコモ・ファイナンスは「人とテクノロジーの融合」を推進している。

 「人だからこそ実現できることと、テクノロジーだからこそ実現できることを組み合わせることによって、オペレーションを提供していくという在り方が理想だと考えています」

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