「歴史上、類を見ないほど悪質」 証拠PCはハンマーで破壊、福島の金融機関が犯した「あり得ない愚行」(1/4 ページ)

» 2025年06月30日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役。横浜銀行勤務時代、全銀協へ出向した際はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。06年に支店長職をひと区切りに退社、現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーとともに情報通企業アナリストとして活動している。


 2024年に発覚した、福島県のいわき信用組合(以下、いわき信組)の不祥事をめぐる240ページにも及ぶ第三者委員会の報告書が公表されました。事件の全容が明らかになるとともに、前代未聞のコンプライアンス、ガバナンス不全事例であるということで、大きな話題になっています。

 きっかけは、2024年9月にいわき信組の元職員がSNSで不祥事を告発したことでした。そこから11月に同信組が告発内容を「概ね事実」と認め、同時に第三者委員会を設置して入念な調査を進めていました。調査報告書では、長年にわたる不祥事の実態及びその組織的隠ぺい体質、さらには委員会の調査に対する妨害行為についてなどを指摘して「金融機関の歴史を見ても類例をみないほどに悪質な事案」と厳しく糾弾しています。

想像を絶する不祥事を起こしたいわき信組(出所:ゲッティイメージズ)

 調査によって現時点で分かっている不祥事の発端は、2004年3月と20年以上も前にさかのぼります。当時、不動産関連業の大口取引先であったX1社(報告書記載ママ)への融資残高が、2002年のつばさ信用組合との合併の影響もあって、同信組の大口与信限度額である「30億円」を大きく超える「47億円」に達していました。監督官庁である東北財務局からはたびたび融資残高の適正化指導があったそうです。しかしX1社は資金繰りに窮する状況にあり、このまま融資支援を続けなければ、X1社の経営が危うくなって多額の貸倒引当金を積むことになり、いわき信組の経営自体を揺るがしかねないとの懸念があったのです。

 そこで、いわき信組のトップであった江尻次郎理事長(当時)は、ペーパーカンパニーを使った迂回融資による違法なX1社支援を指示します。そもそもの動機は、自身に責任が及んで辞任を迫られたくない、という身勝手な個人的保身でした。迂回融資は金融機関の関係者であれば新入社員でも知っている「即懲戒解雇」レベルの違法行為である、いわゆる「浮き貸し」です。その後、迂回融資はさらなる迂回融資を生み、2007年頃からは個人取引先の名義を勝手に使用する無断借名融資までも加わって、泥沼にはまっていくことになりました。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR