さらに驚くべきは、当局の指示や第三者委員会の調査に対する同信組の対応です。不祥事発覚時に金融庁が出した報告徴求命令に対して、実際には実施していない内部調査を「実施済み」と虚偽報告。第三者委員会に対しては、提出要請があった書類の隠ぺいや事実確認に対する不対応および不明瞭な回答、あるいは明らかな虚言回答と思しきものは数知れず。挙句には重要証拠データを保管しているノートパソコンをハンマーで破壊して提出できないなどというあり得ない対応まであり、調査妨害の類としては委員会が「前例のない状況」と明言するほど無法状態であったといいます。
全ての違法行為、隠ぺい作業、虚言・妨害行為を大元で指示し、組織決定を主導していたのは、江尻前理事長に他なりません。江尻氏は2004〜22年に理事長を務め、その後も不祥事発覚後の2024年11月まで会長として絶対的トップの座にありました。江尻氏の下での上位下達の組織構造が有言・無言の圧力となって、組織は誰も反論できぬままにたび重なる不正の上塗りと隠ぺいを繰り返してきたのです。トップ自らが不正に走れば、それを止めることは非常に困難です。ましてや20年もの長きにわたり独裁体制を堅持してきたわけで、長期独裁が組織の統制を失わせたということに疑いの余地はありません。
組織内の皆がなぜ長きにわたってそれに従い、不正に加担してしまったのか。それは、「クビになるかもしれない」「出世できなくなるかもしれない」といった、実権集中による強迫観念のなせる業に他なりません。同時に同信組は比較的小さな組織であり、かつ組合経営の特殊なファミリー性もまた「ムラ」的なまとまりを助長したと考えられます。
ムラの指導者が導く流れに反する動きは「異端者」とみられ、文字通り「村八分」的な扱いを受けるかもしれない。そのような恐怖心が職員の口をつぐませて、黙って流れに従う「常軌を逸した上位下達の風土」をつくり上げてきたと思うのです。不祥事の発覚が、ムラを抜けた退職者の密告であったというのは、その象徴ともいえます。
信用が崩壊した日──いわき信用組合「247億円不正融資」はなぜ起きたか
「SBIや三菱UFJも被弾」相次ぐ不正出金のウラに隠れたもう1つの危ない現実Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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