くら寿司「無念の中国撤退」 スシローは好調なのに、なぜ明暗分かれた?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」

» 2025年07月04日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


 7月2日、回転ずし大手のくら寿司が中国本土からの全店撤退を発表した。

 同社は2023年に満を持して上海に1号店を出店。3店舗まで拡大したが、進出から2年ほどでの撤退となる。

 最近は中国における景気減速リスクがささやかれるが、先行して中国市場に参入した競合スシローは一定の成果を上げている。明暗が別れた理由は、外部要因のみではないだろう。

競合は好調なのに……くら寿司はなぜ、苦境に陥った?

photo くら寿司は中国本土からの全撤退を余儀なくされた(編集部撮影)

 くら寿司の2025年度第2四半期連結における決算短信では、台湾事業については言及されていたものの、中国事業に関する個別のコメントは特段開示されていなかった。くら寿司の中国進出に伴う売上高や損益への貢献はごく限定的だったと見られる。

 上海1号店の開業当初、くらHDは2033年中に100店舗体制を築く野心的な目標を掲げていた。しかし、タイミングの悪いことに、オープンから2カ月後の2023年8月に原発処理水の排出を巡る問題が発生した。

 くら寿司は現地調達率を高め、食材の大半を中国国内調達に切り替えていたものの、当初は「原発処理水」や「日本国産魚」への警戒感が根強く、風評被害に苦しんだ。

 くら寿司はスタートからつまずいてしまったのだ。では、中国進出した他の回転ずし大手はなぜ、出店攻勢を維持できたのだろうか。

明暗を分けたのは「出店エリア」と「ローカライズ」か

 くら寿司の競合に当たるスシローは、中国本土の海に近いエリアおよび香港を中心に展開している。

 運営会社のFOOD & LIFE COMPANIESは、2012年に上海和記餐飲管理有限公司などと共同で合弁会社を設立した。本格的な拡大路線に舵を切ったのは2021年ごろであり、2024年には中国エリアへの出店数は台湾を含めて90店超に達していた。

 中国本土での展開において、スシローは観光客向けの立地ではなく、現地の中所得層が厚く、集客効率が見込めるエリアを選定している。

 これに対し、くら寿司は単独出資で、上海の繁華街に集中出店する方針を取った。上海は地価・家賃が高く、かつ競争の激しいエリアで、ブランド認知がない状態からの立ち上げを強いられた。また、不動産セクター発の景気減速を色濃く受けたばかりのエリアであることも追い討ちをかけたと見られる。

 また、くら寿司は「日本式」へのこだわりから、日本語のロゴや装飾を掲げている様子が同社Webサイトからもうかがえる。「すし=和」を色濃く演出した結果、原発処理水の風評被害をより強く受ける形となったのかもしれない。

「撤退は英断」と見る向きも

 とはいえ、今回の撤退を「傷が浅いうちの撤退」とポジティブに評価する声もある。

 特にくら寿司の業績を見ると、北米における展開は順調で第2四半期までの売上高は196億円に達しており、前年同期比で20%も成長している。

 米国事業の売上構成比は全体の2割近くにまで達しており、黒字化が近い。将来的には全体業績を牽引するセグメントになることが見込まれる。

 今回の結果は「和」を強調したブランディングが奏功した北米市場と、裏目に出た中国市場の対照性が色濃く反映された結果であると、筆者は考える。

 限られたリソースを北米や日本市場のようなくら寿司の得意とする市場に再集中する方が合理的であり、長期的な視点では中国市場に巨額の投資をする前段階で戦略を修正したものと考えられる。

 この点、スシローは北米にはまだ1店舗も出店できていない。2025年中には1店舗を出店する予定だが、26年9月期の中期経営計画でも2〜3店舗までの出店計画にとどまっている。

 そう考えると、スシローは中国での展開が得意で、くら寿司は北米での展開が得意だったという話であり、くら寿司が劣っているといったイメージは誤りであると言えそうだ。

成長余地はアジアに残すべきか

 くら寿司は現状、現地法人を解散せずに残していることから、中国本土から完全撤退するのではなく、再出店可能性を模索する方針である可能性が高い。

 今後、くら寿司にとっては商品や価格、立地そしてオペレーションといった全てのレイヤーで中国市場に寄り添った経営を行うべきなのか、そもそも中国にてこ入れするのか、伸びている北米市場をさらに伸ばすのか、といった見極めが重要になってくるだろう。

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