考えてみると、今回の取り組みはまるでタイムカプセルのようなコンセプトである。「20年後に乾杯しよう」といった企画は、どのようなきっかけで生まれたのか。
発案者は、マーケティング部の小島亨介さんである。元々キリンの工場でお酒を製造していたが、子どもが生まれたことをきっかけに「このかけがえのない時間を、何かの形で残せないか」と考えたそうだ。
頭の中のアイデアは、まだ“もやもや”していたので、消費者の声を聞いて回った。子どもを持つ親に「どのようなものを残したいですか?」などと質問したところ、ある人が「家の柱」について語り始めた。
子どもの成長を記録するため、その人は家の柱に身長の印をつけていたそうだ。けれど、新しい家に引っ越すことが決まり、思い出が詰まった柱を手放すのがどうしても惜しい。そこで、その柱を取り外して引っ越し先へ持って行き、新しい家でも使えるように再利用したのだ。
子どもの成長を記録した柱には、時間の積み重ねが目に見える形で刻まれている。その姿にヒントを得て、「同じようなことをウイスキーでもできないか」と考えたのが始まりだった。
最初のアイデアは「20年後にウイスキーを届ける」というシンプルなもの。でも、当時はまだ「共に生きていく」という今のようなコンセプトはなく、周囲からは「20年間ただ待つだけでは、ちょっと退屈じゃない?」という声もあった。
2021年3月。社内で新規事業の提案制度が始まったので、小島さんは「20年後に届くウイスキー」を提案。なんとか一次審査は合格したものの、評価はあまりよくなかった。「このままでは次の審査で落ちる」と焦りを感じ、再び消費者の声を聞いて回った。
子どもとの思い出が詰まった「家の柱」のようなウイスキーはつくれないか。成長の過程を目に見える形で残せないか。そんな思いから、たくさんの人に話を聞きながら、その答えを探っていった。
やがて見えてきたのは、ウイスキーを定期的に届けるというアイデア。それなら、「共に生きていく」という形に近づけるかもしれない。5年後、10年後、15年後……そして20年後に届くウイスキー。そんなサービスなら、時間の積み重ねを感じてもらえるのではないかと感じたそうだ。
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