――DXやデジタル化を全社でなし得る際に、どのような障壁がありましたか。
当社が直面した最大の障壁は、「旧来のシステムや古い慣習、固定概念、そして過去の成功体験」そのものでした。これまでの成功を支えてきた組織の構造や活動は、専門性を高める一方で、組織内最適化が進み、データや知見が各組織内にとどまってしまう「縦割り構造」を生んでいました。この構造が、変化の速い市場に対応するためのスピード感ある意思決定を妨げる壁となっていたのです。
そこで、私たちはDXを単なるデジタルツールの導入ではなく、旧来のやり方を捨て去り、ビジネスを再設計する「創造的破壊活動」であると定義。組織運営を抜本的に見直し、従来の「機能別マトリックス運営」から、「スクラム型運営」へと大きく舵を切りました。
スクラム型運営は、部門の垣根を越えて多様な専門性を持つメンバーが集い、生活者への提供価値という共通目標に向かって、迅速に意思決定と実行を繰り返す体制です。組織運営の「型」を変えることで、データのサイロ化を解消し、全部門が一体となって価値創造に柔軟かつスピーディーに取り組む文化を醸成できました。
――DX推進において、化学メーカーという貴社特有の難しさはありましたか。また、そういった難しさをどのように乗り越えたのでしょうか。
化学メーカーとしてのDXには、2つの難しさがありました。物質という「フィジカル(物理的)な世界」を扱う研究開発の革新と、安全・品質・法令遵守が絶対条件である生産・サプライチェーンの変革です。
研究開発の現場では、長年の経験を持つ研究員の「匠の技」や「暗黙知」に頼る部分が多く、そのプロセスは膨大な時間と試行錯誤を要します。この「見えざる知」をデジタル化し、開発スピードを飛躍させることは大きな挑戦でした。
私たちはこの壁を、AIとシミュレーション技術で乗り越えました。例えば、ある機能を持つ素材を開発する際、従来は何千通りもの実験が必要でしたが、AI予測を活用し、実験数を数千レベル分の1にまで省力化することに成功しました 。研究員の知見をデータとして形式知化し、AIで拡張することによって、最適解を人間にはできないスピードで導き出す新しい研究開発です。
生産現場では、人の安全確保や製品の品質保証、各国法規制の遵守が最優先事項で、IT業界で言われるような「まず試してみて、失敗から学ぶ」アプローチが適用しにくいという難しさがあります。そこで、化粧品の商品開発プロセスにおいて、企画から法規チェック、表示作成までをデジタル上で一気通貫に行う「Once Onlyシステム」を構築。開発スピードを向上させると同時に人為的ミスを防ぐという、「正確性」と「遵法性」を担保しています。
また、工場のスマートファクトリー化も推進しており、AI搭載の自動運転フォークリフトの導入による物流効率化や、少量・多品種生産が求められる化粧品工場での自動化ラインの構築などを進めています。
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