オルツの粉飾決算 見抜けなかった東証・証券会社の「重い責任」古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」

» 2025年08月01日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


 AIによる議事録作成サービス「AI GIJIROKU」を展開していたオルツが、東証グロース市場への上場からわずか10カ月で破綻した。

 7月29日に公表された第三者委員会の127ページにもわたる報告書は、同社が2020年から2024年にかけて約120億円に上る売上高を架空計上していた事実を明らかにした。

 報告書では、取引所と主幹事証券は一貫して「虚偽の報告を信じた被害者」としての立場で記載されているようだが、これらの関係者に対しても改善が求められる。

見抜けなかった“虚構” 粉飾決算のスキームとは?

 まずはオルツの粉飾決算の概要を確認しよう。報告書によれば、オルツは「SP」(スーパーパートナー)とよばれる販売代理店との間で、アカウントの発行実態がないままライセンス販売の売り上げを計上した。

 さらにその売上代金は、広告代理店や研究開発委託費の名目でオルツが資金を支出し、代理店や委託先を経由して再び代理店に還流させたものであった。

 つまり、オルツが第三者に支払った資金が最終的にはオルツに売り上げとして戻ってくる、典型的な「循環取引」スキームが構築されていたのだ。

 これにより、オルツは架空の売り上げを計上し、事実上の「粉飾決算」によって成長企業の体裁を装っていた。

 その結果、架空の売上高が実態の10倍近くまで膨れ上がり、財務諸表上の広告宣伝費や研究開発費も大半が実態を伴わない水増しであったことが判明した。

主幹事証券の審査対応は妥当だった?

 報告書では、主幹事証券にも言及がある。引受審査時、オルツは代理店との取引に関し「正規契約がある」「アカウント発行は済んでいる」などと説明した。

 その結果、調査委員会は「当社(オルツ:筆者注)は、これらの意義を理解せずに適切な外形を取り繕うかの対応に及んだものであり、このような対応は、監査制度や上場審査制度の根幹を揺るがしかねない強い非難に値する行為である」と締め括っている。

photo オルツ調査報告書p.82〜83より(PDF) ※マーカーは筆者による

 本報告書はあくまでオルツの不正に関するものであることから、主幹事証券やJPXの責任の追及はしていない。しかし、この表現は裏を返すと「主幹事証券やJPXは典型的な資金循環スキームを見破れなかった」ということを示していないだろうか。

「AIバブル」甘い期待が盲点に?

 オルツは生成AI銘柄の企業として、技術革新と社会的意義を強調するIRを展開していた。

 報告書でもオルツについて「スタートアップ企業として華々しい受賞歴を持つことや、著名な教授を顧問に迎える等、当社は高い社会的信用力が付与された企業であるという外観を呈していたといえるだろう。このような事情もあいまって、本件疑義が発覚されにくい状況が作出されていた可能性はあるものと思料する」と記載している。

photo オルツ調査報告書p.97より(PDF

 この内容は、直接的に主幹事証券や取引所を批判する文言ではない。しかし、そこには「主幹事証券や取引所には先端事業の内容を評価する能力が乏しい。受賞歴があって著名な業界人が顧問であれば、審査が緩くなる」という含意がないだろうか。

 事業実態よりも「生成AI」というバズワードへの期待が先行し、形式的な契約書やIR資料の裏にある「中身」への検証がおろそかになっていなかったかを確認すべきである。

企業側の「良心」に問いかける再発防止は不十分

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 今回の事件は、企業側の不正のみならず、主幹事証券と東証という二重の審査の網が機能しなかった点に深刻な課題がある。

 筆者としては再発防止策として、主幹事証券や取引所による実地確認義務の強化や取引所の審査における「売り上げの経済的実態」確認プロセスの制度化をより精緻に行うべきと考える。

 特に、取引所が専門的な知見を有さない先進分野については、外部有識者などをより深い審査プロセスに組み込むことで、実効的な上場審査を実現させるべきだろう。

 東証グロース市場は、成長企業の登竜門として機能する反面、審査の甘さが「虚構の成長企業」すら通過させ得るリスクを有する。AIバブルの影で、株式市場の信頼を揺るがす事件が起きたことを、市場の運営側も重く受け止めるべきだ。

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