80兆円投資のトランプ関税合意、一番損するのは「米国の一般国民」だといえる理由(1/3 ページ)

» 2025年08月07日 10時16分 公開
[古田拓也ITmedia]

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。Twitterはこちら


 2025年7月、日米両政府は、日本製自動車や部品に課される予定だった25%の追加関税を15%に引き下げることで合意した。その見返りとして、日本は自動車、半導体、エネルギー、インフラ、防衛装備といった多岐にわたる分野で、総額80兆円(約5500億ドル)に及ぶ対米投資を約束した。国家間の経済合意としては過去最大規模である。

日米関税交渉、被害者は誰なのか(ゲッティイメージズ)

 この合意を受け、株式市場は即座に反応した。輸出比率の高いトヨタ自動車など大手企業の株価が上昇し、日経平均株価も一時600円超の大幅高を記録。ポジティブサプライズとして歓迎された格好だ。

出所:トレーディングビュー

 その一因は、合意文書に米国製自動車の日本市場での販売拡大に関する要求が含まれていなかったことにある。自動車産業にとっては、業績下振れリスクの緩和につながり、企業決算への影響も限定的であると市場は判断した。

 また、日本側は農産物分野において、関税水準を維持しつつ、数量ベースで米国産コメやトウモロコシの輸入枠拡大を受け入れることで合意。国内農業への影響を最小限に抑えながら、米国の要求に応じたかたちだ。

各種報道資料を基にカンバンクラウド作成

対米投資の構造的リスクと一方的な“精査”の懸念

 ただし、株式市場の反応はあくまで短期的な評価にすぎない。80兆円に及ぶ巨額の対米投資には、日本企業にとって中長期的なリスクも伴う。現地での生産体制拡大により、米国での雇用創出や供給網の強化には寄与するものの、日本国内やその他地域への投資が相対的に減少し、米国への過度な依存が高まる懸念も根強い。

 さらに、この合意には「四半期ごとの履行精査」という条件が付されている。米国財務長官は、「合意内容が不十分であれば、関税を再び25%に戻す可能性もある」と明言しており、日本側が継続的に成果を示し続けなければならない構造が内在している。

 この点については、「今回の合意は一時的な安心にすぎない」との見方もある。ただし、自動車・農業といった基幹産業において、日本側が一定の主導権を保てたことは評価に値する。その意味では、市場の初期反応も一定の合理性があるといえる。

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