百貨店の売り上げで多くを占めるのが衣類や靴、財布、化粧品などの「身に着ける」商品である。当時の衣類は現在よりも高価なものであり、中間層も百貨店で購入していた。かつて店舗の屋上にファミリー層をターゲットにしたテーマパークがあったように、百貨店は現在のイオンのような存在だったといえる。
だが、1990年代からダイエーなどの総合スーパー(GMS)が台頭。ユニクロやしまむら、洋服の青山など各ジャンルに特化した「カテゴリーキラー」も郊外で勢力を伸ばし、百貨店から中間層が離れた。製造小売業(SPA)の業態を採用するカテゴリーキラーは衣類単価の下落をもたらした一方、品質も向上させ「安かろう悪かろう」の印象を与えなかった。
中間層が離れるなか、百貨店業界は富裕層やインバウンドへの依存度が高まり、呉服屋系と電鉄系の明暗を分けた。富裕層やインバウンドはそもそも大都市圏に集中しており、一等地に店舗を構える高島屋などの呉服屋系は集客に有利だ。近年は富裕層が増えており、インバウンドの増加も著しく、追い風が吹く。一方で西武のように郊外が主軸の電鉄系は富裕層を取り込めず、中間層離れによって、業績が長期的に低迷した。
二極化が進む百貨店業界では、勝者と敗者で異なる戦略をとっている。苦戦する電鉄系でみられるのが、カテゴリーキラーの誘致だ。テナントにユニクロやノジマなどを入居させ、中間層の集客を進めてきた。
だが、このような施策は富裕層離れや、ラグジュアリーブランドの撤退にもつながる。ブランドイメージの低下をもたらしかねない施策だ。旧そごう川口店のように、自社で再生できない店舗を他社に売却する事例も相次ぐ。
対する勝者組は富裕層向けの強化を進めている。新宿高島屋では高級ブランドフロアの改装や、ゴルフ売場の拡大などを進めた。2024年には富裕層の運用助言会社を買収した。三越伊勢丹ホールディングスは2022年に「外商統括部」を新設。伊勢丹新宿本店と三越日本橋本店で分かれていた外商部門を統一し、品ぞろえや営業体制を強化した。二極化が進む業界において、勝者の百貨店は庶民にとってますますハードルが高くなっていくかもしれない。
山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 X:@shin_yamaguchi_
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