例えば、幼稚園バスなどでの置き去り防止。重要潜在ニーズでありながら長らく後回しにされてきました。園児が犠牲になる痛ましい事故が相次いだことで、現在では重要顕在ニーズとして認識されてきていますが、本来はもっと早く取り組むべきだったものです。
送迎バスが果たすべき重要顕在ニーズは時間通りに人を運ぶことですが、自動運転が実現すれば運転に費やしていた時間と労力を他で使えます。そこで職場が安易に人員を減らすのではなく、重要潜在ニーズの存在に目を向ければ、降車後はもちろん、乗車中も子どもたちの安全管理に最優先で取り組めるはずです。
また、管理職が罰ゲームだと揶揄(やゆ)される背景にも重要潜在ニーズが隠れています。十分な権限が与えられず、効率重視を理由にタスクを背負わされ過ぎているといったきらいがあります。
プレイングマネージャーなどは、その最たる例です。タスク過多でマネジメントに満足な時間を割けず、会社の命令は絶対で業務を取捨選択する権限を与えられず、責任だけ厳しく追及されれば罰ゲームと言われるのも無理はありません。
しかし、時産効果で生まれた時間を情報収集に充てたり、部下育成に注力したり――といった重要潜在ニーズに振り向けられれば、有効に機能するマネジメントが期待できます。名ばかり管理職ならなくした方がよいのでしょうが、チームの生産性を高められる管理職であれば組織にとってプラスになるはずです。
他にも、
――など、重要潜在ニーズが職場に新たな仕事をもたらし、人間の役割を進化させる余地が多分に存在します。
インターネット普及前は、WebディレクターやWebデザイナーといった仕事が想像できなかったように、今は存在しない仕事が生まれる可能性もあります。
もちろん、機械任せによって生まれた時間を休息に充てることも重要でしょう。時間という資産を、豊かな人生のためにどう使うかという視点も必要です。
機械任せには落とし穴もあります。AIは人間を凌駕する頭脳を既に持ちつつありますが、なぜそのような結論に行きついたのか、AIの思考プロセスを人間が理解できないことがあります。
もしAIが出した答えを無批判に受け入れるようになれば、何が必要な取り組みかの判断においてさえも人間の意志が介在しなくなり、実質的に新たな仕事をAIが創出することになってしまいます。
それはすなわち、人間が機械に支配される未来の到来を意味するだけに、どれだけテクノロジーが進化したとしても、越えてはならない一線と言えるのではないでしょうか。
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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