ここ数年、新卒で入社した社員の行動に異変が起きています。注目されている一つが、退職代行サービスの利用です。入社間もない新卒社員が、早々に退職代行を利用して会社を辞める事例が話題となりました。
また、新卒社員による転職サービスへの登録者数増加もそうです。AERAが報じた記事「長期目線でゆるゆる続ける“ゆる転職活動”『心の逃げ道』つくりたい若手に浸透」でも紹介されているように、パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」に、新卒社員が入社直後の4月に登録した数は10年ほど前から急増。2024年には2011年比で約28倍にもなっています。
これらは新卒社員だけに見られる動きかというと、そうとは限りません。転職サービスはもちろん、退職代行も、利用している年代層はさまざまです。日本の雇用を取り巻く環境を整理し大きな流れを確認してみると、新卒社員の行動変化は働き手全体に起きている潮流の一部に過ぎないことが見えてきます。
いま雇用労働周りには、一体どんな変化が起きているのでしょうか。
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
日本的雇用といわれる慣行は、高度経済成長期に確立されたと言われます。
特徴として挙げられるのは「年功序列」「終身雇用」「企業別労働組合」――の3つです。これらの慣行は人口増加とともに急激な発展の最中にあった当時の経済環境や社会の考え方、人々の価値観などに鑑みると理にかなっている面があり、有効に機能してきました。
例えば、性別役割分業。かねて結婚すると男性は外で働き、女性は専業主婦になって家庭を守るという、性別と役割をひも付ける考え方は一般的で、深く世の中に浸透していました。そのため、男性に求められる最大のミッションは、生涯にわたって安定した収入を家庭にもたらすことに他なりませんでした。
また、子どもが成長するにつれて食費などで必要となる生活費は増え、教育関連費もかかるようになります。特に高校や大学などの高等教育には多額の費用がかかるため、年齢や勤続年数にひも付いて昇進昇格し、収入が上がっていく年功賃金は、家計の安定継続と歩調が合っていたのです。
こうした年功序列制度のもとでは、若年層の賃金水準は低く抑えられる傾向があります。そのため、会社に長く勤めるほど恩恵を得られる一方、終身雇用で定年まで雇用が保証されることが社員にとってのインセンティブになりました。会社側にとっても、一度採用すれば社員の転職リスクが低いため、長期的な視点で未経験の人材を育て上げ、家族のような関係性を築きやすいシステムでした。
しかしながら、転職しないことが前提となった雇用関係には弊害もあります。同じ会社に定年まで勤めることが当然とされるため閉鎖的な組織になりがちで、特殊な職場文化やルール、不当な上下関係なども構築されやすくなります。
こうした状況は、良くも悪くも会社を個々にガラパゴス化させました。そのため、欧州のように産業別で横断的に組織される労働組合よりも、会社ごとに組織される企業別労働組合の方が、相性が良かったと言えます。
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